: サイバースペースにおける名誉毀損
: ―ニフティ事件判決を考える―
: http://www.asahi-net.or.jp/~vh3j-kmt/hosei/student/1997/tsuchiya.html
この裁判は、webを運営しているものとしては、非常に興味深かったので、よく覚
えています。
ただ、この裁判の判例を今回の一連の発言に関して、適用するのはどうかと思い
ます。すなわち、当時この裁判で争点になったのは、パソコン通信上で用いられ
ているハンドル名を、誹謗中傷することが名誉棄損にあたるのか、ということで
した。
判決は、なるということだったんですが、これには幾つかの要件を満たしていた
ため、と理解しています。すなわち、この裁判で原告になった方が用いていたハ
ンドル名に匿名性がなかったため、ということです。当初、NIFTY側は、
NIFTYにおけるハンドル名には、匿名性があり、当の本人が誰かはわからな
いので、ハンドル名の相手を誹謗中傷しても名誉棄損にあたらない、と裁判で弁
論しました。しかしながら、原告のハンドル名は、
1)被告が繰り返し原告のハンドル名と本名を示して、同一人物であることを明ら
かにしていること
2)会員情報誌に、原告のハンドル名と本名が掲載されていたこと
3)原告はニフティサーブ上で職業と訳書名を公開していたことから、原告のハン
ドル名が原告自身を示す事実を、多数の会員が認識し得る状態であった
ということで、原告に関して匿名性が確保されていたとはいえないとした。すな
わち、当人が誰かがわかるから、当人を誹謗中傷しなくても、ハンドル名を誹謗
中傷すれば同じことだ、という解釈をしたんだと思います。つまり、ネットワー
ク上で用いられているハンドル名は、文章の形になっていなくても、芸名やペン
ネーム、などと同じもので、名誉毀損が成り立つという論理です。
逆に言うと、匿名性が保たれており、本人が誰かわかからない場合は、ハンドル
名の当人を誹謗中傷しても、名誉毀損が成り立つ要件、“社会的信用を著しくお
としめた”ということにはならない、ということになります。従いまして、今回
の場合、残念ながら、ひなのさんが誰かは不明ですので、先の裁判の判例をもっ
て、安田さんがおかしいということはできません。
匿名性の有用性は理解していますので、ひなのさんに本名を名乗れと行っている
わけではなく、名乗りたくない場合は、それでかまいません。ただ、匿名性が確
保されている場合、これまでの一連の発言で、問題になっていることは、上記の
判例に当てはまらないと考えられるということです。