既に、管理人さんからご紹介の有りました、加藤久氏の連載コラム「蹴球浪漫」で、我がコンサドーレサポーターの事が取り上げられています。
この度、加藤 久氏及び朝日新聞社のご厚意により許可を頂きましたので転載させていただきます。
////////////////////////////////
週刊朝日 11月19日号
蹴球浪漫 筆者 加藤 久氏
温かい「道産子」サポーターに感動
札幌厚別公風競技場の出入り口から左に折れたー般道は、試合後一時間近くたっても渋滞が続いていた。
歩道には、出てくる選手を待ち構えてサポーターが連なっている。コンサドーレ札幌の赤と黒の縦じまのユニホームを着て、手には小さなプラカードを持っている。「どんな時もー緒だよ」「まだまだこれからだ」。激励の言葉が並んでいた。千歳空港に向かう車の中、隣には所用で東京に向かうコンサドーレの監督・岡田武史がいたが、彼がボソッとつぷやいた。「北海道の人は本当に温かいんだよな」
十月三十一日、J2の天王山、コンサドーレ札幌対川崎フロンターレの試合には一万三千人を超す観客が集まった。コンサドーレは負ければJI昇格が絶望的になる。一方、フロンターレは、この試合に勝てばJI昇格がほぼ確定する。
試合は、立ち上がりからコンサドーレが何度もチャンスを握った。中盤のキーマンであるアシスとビジュを欠き、「純国産」での戦いである。アシスがいると、後方でポールを待った選手がいつも彼を探してパスを送るため攻撃の仕掛けが遅くなる傾向があったが、この日は前線にボールが早めに入り、後方からの押し上げも実に早い。「私が見たコンサドーレの試合ではベストゲームですね」NHKの解説の中で私はそう言ったが、試合後チーム関係者と監督もおなじ事を言っていた。
それほどその日のコンサドーレは良かった。リーグ開幕前から「J1に昇格するのが当たり前」と周囲から思われていた精神的重圧が、尻に火がつき、初めて吹き飛んだように感じられた。”失敗を怖がっている”コンサドーレの試合を見るたびに私が抱いていた”感じ”を、この日は試合が決着するまで思い浮かべることはなかった。
一方、フロンターレもJ1昇格のゴールがはっきりと見えてきた影響が感じられる試合だった。ここまでくると、選手は計算を始める。下のチームとの勝ち点差、得失点差。心の奥底にある、「早く決めたい、早く楽になりたい」と言った思いの反動がプレーを硬くさせる。だが、何度も試合を決める場面がありながら、そこで決めきれないコンサドーレの拙攻に助けられて、Vゴールが転がり込んできた。我慢勝ちでもあった。
歓喜のフロンターレ、失意のコンサドーレ。両チームはくっきりと明暗を分けたが、札幌のサポーターは、敗者に優しかった。がっくりとうなだれスタンドに挨拶に行った選手達に全員が立ち上がって拍手をしている。コンサドーレのVIP達も立ち上がって拍手をしている。スタジアムは実にいい雰囲気だった。
罵声を浴びせるようなサポーターが居るのではないかと思っていたが、少なくとも私の目にはそうした光景は見えず、なぜかホッとした。
負けたときに誰も責めない。逆に暖かい拍手を送る。だから、コンサドーレは勝てないんだ。そんな声が聞こえてもおかしくはないだろう。サポーターは、もっと厳しくあるべきだ。なぜなら、厳しい批判が選手やチームを育てるのだから。
でも、このもっともらしい理屈をコンサドーレのサポーターは聞く必要はないと思う。スタジアムの空気や試合後の光景は感動的だった。どこにも力が入っていない。気持ちそのままの応援がそこにあった。
妙なサポーター論に振り回されずに、サポーターがこの姿のままでいてくれたらいい、自然にそう思えた日だった。
////////////////////////////////
「この記事は、筆者である加藤久氏及び朝日新聞社の許諾を受けて転載したものです。無断で複製、改変、送信、領布するなど、著作権を侵害する一切の行為をお断りいたします」