[第13節]in市原臨海:ジェフ市原戦

文・写真/大熊洋一

常識的に考えれば、勝ち目のない試合だった。イバンチェビッチ監督の就任後、ほぼメンバーを固定して戦ってきたコンサドーレにとって、小倉、バーヤック、山瀬の3選手が同時に出場停止というのはあまりにも影響が大きすぎる。どうやって攻撃を作っていくのか、まったくイメージが沸かない。勝てるとすれば、コーナーキックか何かで1点取ってそのまま逃げ切る、ぐらいしかないだろう。

それでも、僕はこの試合に多少の期待を抱いていた。内容は悪くないのに勝てない、この閉塞した状況を打ち破ってくれるような新たなパワーが、前3人の出場停止で逆に生まれてくるのではないか、いつもとは違うメンバーでやらざるを得ないこの試合こそが、逆にブレイクするためのチャンスなのではないか-希望的観測を込めて、そんなふうに考えていた。

しかし、現実は、そんなに甘くはなかった。

☆メンバー
コンサドーレ札幌:
GK1佐藤洋
DF4今野、32佐藤尽、6大森
MF8ビジュ、15森下、31西田、13平間、20和波
FW18曽田、5ジャディウソン
(R:21藤ヶ谷、14古川、22吉川、7酒井、11磯山)

ジェフユナイテッド市原:
GK17櫛野
DF32斉藤、5ミリノビッチ、2中西
MF23坂本、6阿部、7武藤、19村井、22羽生
FW9大柴、10崔
(R:12立石、3吉田、8長谷部、16林、13和多田)

コンサ側ゴール裏に掲げられた横断幕

19時、キックオフ。この日、日中の最高気温は36度まで上がったそうだが、試合開始時のスタジアムにはメインスタンドから見て右から左へとかなり強い風が吹いており(風上は前半がジェフ、後半がコンサ)、さほどの蒸し暑さは感じなかった。

登録上は3-5-2に見えるコンサだが、実際のフォーメーションは、曽田を1トップにして、その後ろに平間とジャディウソンが並ぶ形。対するジェフは、大柴と崔の強力2トップの背後に羽生、中盤の底を阿部と武藤が固め、右の坂本と左の村井を両翼に配するいわゆる3-5-2。昨年11月、同じこの市原臨海で村井のクロスから崔のヘッドで2点を奪われ完敗したんだよね…隣に座る友人とそんな話をしていた矢先、村井から逆サイドへ向けて長いクロスが入り、和波が崔に振り切られる。時間は開始わずかに2分。幸い、崔のシュートがはずれて事なきを得たが、決定的といっていい場面だった。

コンサドーレのチャンスは、9分、ジャディウソンがミドルシュートを放った場面(→相手ディフェンダーに当たりコーナーキック)と、13分、これもジャディウソンが左サイドをドリブルで駆け上がりゴールライン手前でファウルを受けた場面(→フリーキックを得るがビジュが足を高く上げて危険な行為とされる)の2度ぐらい。暑さのせいなのか、お互いに得点が入りそうな雰囲気のない、まったりした試合になりつつあった。このまま0-0で終わってもいいぞ、今日のメンバーなら勝ち点1でも仕方がないだろう…

そんな中での23分の失点は、じつに痛かった。大柴の縦パスを武藤がヒールで流し、裏に抜けた崔が左足で落ち着いて右のサイドネットへ流し込むというもので(この崔のシュートには思わず「さすが!」と言ってしまった)、崔の逆サイドを上がってきたミリノビッチをケアする余り崔が一瞬ノーマークになってしまったものだった。ただ、崔のマークがはずれたこと以上に、僕が気になったのは、裏へのボールが出た瞬間、コンサドーレの選手たちが足を止めたように見えたことだった。

同じような場面は27分にも登場する。ジェフが裏へ出したボールに対し、コンサ守備陣は、手を上げてオフサイドをアピールしながら、ほんの一瞬、足を止めた。足を止めたから、2列目から飛び出してきたジェフの選手はつかまえられない。大ピンチとなるところだったが、ビジュが猛烈な勢いでカバーに走り、ボールをクリアした。ラインを高く上げようとの意図は分かるが、足が止まったように見えるのはどうしても気になる。

コンサドーレは35分に今野から右の平間、平間のクロスにビジュが飛び込むが合わせきれず、が目立ったぐらいで、ほとんどチャンスを作れなかった。曽田がトップにいるのだから単純に曽田の頭でもいいと思うのだが、曽田へ浮き球が入ったのはキックオフ直後と22分(西田からのパス)の2度だけ。22分の場面では曽田が頭で落とした後ボールをキープしてファウルをもらっており、曽田はボールを奪われていない。曽田の頭は十分に有効な起点となり得たはずだ。

もっとも、その22分の場面にしても、曽田がキープしているところへサポートに入ってくる選手がいないからファウルになったわけで、本当なら、曽田がファウルを受ける前に次の攻撃へとつなげなければならないはず。その役割を果たさねばならないのは平間だと思うのだが、平間と曽田の関係はまったくかみ合っていなかった。低い位置で相手ボールを奪ってからカウンターをねらうなら、まず曽田に当てて平間が飛び出す(=小倉とバーヤック、山瀬の関係と同じ)べきだが、せっかく前で曽田が張っているのに、なぜか平間は後ろへ戻してしまったりキープしたりすることが多く、その瞬間に、前で張っている曽田がまったく役に立たなくなってしまう。コンサドーレが後ろでボールをキープしていると、今度は平間とジャディウソンが曽田を追い越してしまい、曽田が後ろを向いた状態でボールを受けても出すところがない。前節の清水戦から中3日、このわずかな時間でコンビネーションを合わせるのはやはり無理だったか…。

37分、ビジュが怒った。前の選手に対して、もっと動けと言っているように見えた。前節まではいるのかいないのか分からないほど存在感のなかったビジュだが、ようやくコンディションが上がってきたようで、この試合では、本来の危機察知能力と当たりの強さを見せてくれた。42分にはそのビジュのドリブルが相手のファウルを誘い、ジャディウソンがフリーキックを直接ねらうもカベに当ててしまう。右45度とジャディウソンにとっては絶好の位置だったのだが、強い向かい風でやりにくかったのかもしれない。

前半ロスタイム、今度はジャディウソンのドリブルから左サイドの深い位置でジェフのファウル(とにかく、ジャディウソンのドリブルかビジュのドリブル以外には相手ゴール前へ入れないんじゃないかと思うほど、この日のコンサには攻め手がなかった)。森下から速いボールがゴール前に入ってくる。と、曽田の頭が誰よりも高く上がってきた!よし!…が、シュートは枠をとらえられない。それでも、この日コンサドーレがもっともゴールに近づいたプレーであったことは確かで、はずれたとはいえ後半に希望をつなぐシュートではあった。

ハーフタイムには、東海大望洋高校チアリーディング部によるデモンストレーションがあった。全国大会で上位に入ったとのことで、コンサドールズでおなじみの曲も流れたが、いかんせん観客が少なすぎて、彼女たちには気の毒だった。

そして後半、問題の場面である。開始早々、大柴が裏へ飛び出す。佐藤洋平が大柴の足元へ飛び込んでボールを抑えた-間違いなく、僕の目には、洋平の両手の中にボールが収まるのが見えた-のだが、レフェリーはイエローカードを出した。あ、大柴のシミュレーションか、と思ったら、なんと、PKが宣告された。レフェリーに向かって激怒する洋平。味方が止めに入ったが遅かった。少し間を置いて、洋平にイエローカードが出され、そしてレッドカードが突きつけられる。このとき、時間は開始55秒。それから2分半ほどたって藤ヶ谷が出てきた。代わりに下がるのは和波。崔のPK。藤ヶ谷が飛んだ方向は正しかったのだが、シュートを手に当てることはできなかった。これで2-0。僕の隣の友人「2-0よりも、10人になっちゃったことが痛いですよね」。

僕は、そんなことよりも、この誤審PKを、イバンチェビッチ監督が言い訳に使うことを心配していた。確かにPKの判定は間違いだとは思うが、前半の戦いぶりからすれば、コンサドーレがたとえ1点のビハインドでもひっくり返せるようには思えなかった。おまけにサブにはなぜか古川と吉川が2人並んで入っており、攻撃の選手を増やそうにも選択肢は酒井と磯山の2人に限られる。このPKを、勝敗の帰趨を決定づけるものであるかのように認識してしまうことは、この試合におけるコンサドーレの問題点を包み隠してしまうのではないか-

9分、またしてもビジュのドリブルがファウルを誘い、ゴール正面でのジャディウソンのフリーキック。鋭くカーブしたボールは左隅ぎりぎりへと飛んだが、櫛野のファインセーブに阻まれる。15分、コンサドーレの攻撃のリズムを壊していた平間に代わり、酒井が入る。16分、西田が村井を後ろから倒しイエローカード。西田はここまで、トイメンの村井とのマッチアップに負け続け、まったくいいところがなかった。村井の攻撃力を警戒する余りか、低い位置でボールを持ってもドリブルで上がっていくことはほとんどなかった。

18分、大森から長いクロスが入り、ゴール前へ飛び込んだ酒井がヘッドで合わせるが枠をはずれた。22分、酒井からゴール前の曽田、曽田が落としたボールを西田が拾ってジャディウソンに預けジャディウソンのミドルシュート、が、クロスバーの上。酒井が入ったことでテンポよく前線へボールが運ばれるようになったものの、さすがに10人ではここまでが精一杯。逆に、23分に林、25分に崔に、それぞれ藤ヶ谷と1対1の局面を作られてしまう。いずれの場面も藤ヶ谷が見事にはじき出したことで、惨劇は免れた。たとえ勝ち点を取れなくとも、先のことを考えれば、得失点差は少なくしておくに越したことはない。その意味では、この日の藤ヶ谷はコンサドーレのMVPといってもいい。

コンサドーレは36分に曽田に代えて初登場の磯山を入れたが、相変わらず中盤から後ろでゆっくりとボールをまわすばかりで、磯山には見せ場すら与えられなかった。おまけに39分にはジャディウソンにイエローカードで、通算3枚目のジャディウソンは次節出場停止。

結局、そのまま、得点が入りそうな気配すらなく、2-0で試合は終わった。あえていえばビジュの復調と藤ヶ谷の活躍が目立った試合ではあったが、正直なところ、何も得るところのない試合だった。イバンチェビッチ監督就任後の6試合の中では最低の出来。攻撃陣の3選手が不在であることを考えれば、予想通りの結果ともいえるわけだが、それが、悔しかった。

あれは絶対にPKではない。が、終わったことを言ってみてもどうにもならない。これでついに9連敗。下を向かないためには、出場停止の3選手が休息できてよかった、ぐらいに考えておくしかない。


試合前、サポーターに挨拶するコンサドーレの選手たち 選手入場と同時にホーム側ゴール裏にフラッグが広がった
佐藤洋平選手の退場で藤ヶ谷選手が今季初出場 連敗続くも温かく見送るコンササポ
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