文・写真/大熊洋一
何度来ても仙台スタジアムはすばらしい。スタンドとピッチが近いうえに、スタンド全体を覆う屋根がサポーターの声援を迫力ある効果音に変えてくれる。だから、観客は自然と「仙台劇場」の一員となる。地下鉄の駅からすぐ近くというのもありがたい。
ただ、不思議なのは、仙台サポーターがいつの頃からかバックスタンドに陣取るようになったことで、僕が取っていた指定席は、その仙台サポーターのすぐ脇だった。もっとも、僕もレプリカユニを着ているわけではないし、そもそも、選手紹介時に仙台サポーターから「がんばれ、がんばれ、てつじ!」のコール(エール?)が起きるような状況では、仙台サポーターから襲われる心配などあるはずもない。
それにしても、試合が始まる前から敵に塩を送られるというのは、なんとも情けない気分ではある。
☆メンバー
(コンサドーレ札幌)GK1佐藤、DF22吉川、14古川、18曽田、MF2田渕、26吉瀬、15森下、6大森、13平間、FW16堀井、17小倉(SUB:22井上、20和波、19中尾、7酒井、25新居)
(ベガルタ仙台)GK16小針、DF17飯尾、6リカルド、4小村、5片野坂、MF27森保、26村上、8シルビーニョ、14岩本、FW10財前、19光岡(SUB:1高橋、2渡辺、7千葉、32山田、11藤吉)
仙台のメンバーを見た同行者いわく「寄せ集めだねぇ」。でも、その寄せ集め軍団がリーグ戦では勝ち星を重ねている。ただ、今日は、山下が日本代表合宿、マルコスが負傷と、仙台自慢の2トップが揃ってお休み。コンサにだって、十分に勝機はある。
前半6分、左サイドの曽田が手を上げてオフサイドをアピールするも認められず、光岡に裏をとられる。曽田が光岡を後ろから引っ張り倒して仙台のフリーキック。蹴るのはもちろん岩本輝雄。左足からきれいな弾道がゴール前へと描かれるが、佐藤洋平がパンチングでクリア。結果的にはどうってことないボールだったが、それでも、こういう武器を持っているだけで、守る側にとっては脅威に感じる(うらやましい(^^;))。
しかし、この後は、コンサドーレがゲームを支配しつづけた。
まずは8分、自陣右サイドでのフリーキックを佐藤が前線へ送り、中央で受けた小倉がヘッドで前方へ落とすと、堀井が相手GKと1対1。しかし、堀井のシュートはGK小針の正面をつき、小針に弾かれる。13分、右から田渕がスローイン、受けた平間が大ブーイングを受けながら小村をかわしてドリブルで相手ゴール前へ入り、小倉へつなぐもその寸前でクリアされる。14分、平間から、右サイドを駆け上がった田渕へとボールが渡り、田渕がゴール前へ放り込むもGKキャッチ(中央に堀井、逆サイドには大森も詰めていただけに、惜しい場面だった)。15分、右サイドで堀井が岩本に体当たりを食らい、これで得たフリーキックを森下がゴール前へ入れると、ファーサイドの曽田がGKに競り勝ってヘッドで折り返し、吉川がヘディングシュートもボールはクロスバーの上。18分はゴールラインへ向かって走る堀井へ大森がロングフィードを入れると、堀井がリカルドと小村の間を簡単にすり抜ける、が、堀井が追いつく前にGK小針がコーナーキックに逃れる。この左からのコーナーキックから、こぼれ球を右サイドで拾った小倉がドリブルで少し戻りながら角度をつけてミドルシュートを放つ、が、シュートはクロスバーのはるか上。
とにかく、おもしろいぐらいに、堀井が裏へ抜けた。仙台のセンターバックを務めるリカルドと小村は堀井や平間のスピードについていけず、一応は堀井をみているらしいリカルドなど何の役にも立っていなかった。一方で、財前と光岡の2トップは、コンサドーレが中盤で早いチェックを仕掛けることもあってか、ゴールへ向かう怖さが感じられない。むしろ、怖いと思えるのは、ときおり2列目から飛び出してくるシルビーニョのほうで、前半32分とロスタイムの二度、佐藤とシルビーニョが1対1になる場面があったが、いずれも佐藤が早い飛び出しでセーブした。中盤を作れない仙台がゴール前へロングボールを放り込んでも、コンサドーレのゴール前には曽田がいる。3日前の磐田戦(厚別)でも自陣ゴール前で大活躍だった曽田は、今日もコンサドーレの壁として仙台の前に立ちはだかっていた。
後半開始直後、堀井が右サイドでボールをキープ、吉瀬がこれを受けようと上がっていったところで後ろから引っ張られ、コンサドーレのフリーキック。小倉がゴール前へ低い弾道のボールを蹴ると、古川がダイビングヘッド(まるで黄川田のようだった)、GK正面。4分にはまたしても右サイドで堀井がキープの後、中央を吉川が上がってきて堀井-吉川とつなぐも仙台のクリアでコーナーキック。右からのコーナーキックは小倉がファーサイドへ入れ、曽田がヘッドで折り返すとGK小針がボールに振りまわされてゴールは無人。しかし、吉川のシュートは枠をとらえられず。
後半5分、今度は仙台のチャンス。左でボールを持った財前が中央へドリブル、岩本が財前とクロスするような形で中央から左サイドへと走りこむとそこへ財前からピンポイントのパスが通り、岩本がフリーでクロスを入れたが曽田がクリア。コンサドーレは、前半、献身的な動きでスペースを作り続けた平間の動きが落ち、徐々に仙台にボールを支配される時間が増えてきた。17分、小村からのロングボールを受けた財前を、吉川が後ろから倒してしまいイエローカード。そんなに無理する場面ではなかったと思うのだが、前半あれほどまでに攻め続けて得点が奪えなかったことが焦りにつながったのか。
20分、コンサドーレが平間に代えて酒井を入れると、21分、仙台は光岡を下げて藤吉を入れた。「ブレイクしないままベテランになってしまった」ような印象を受ける藤吉だが、仙台ではいぜんとして絶大な人気を誇る。スタンドからは「♪ふっじよっしご~る」の大コール。僕の隣の同行者は「ギャッツビーつけてたヤツだよね」などと、Jリーグバブルの頃の誰も覚えていないようなネタを持ち出す。
ところが…24分、右サイドでボールを持った藤吉が、ほんの少しだけ体を左右に振って曽田の足を止めると、ドリブルで外から中へ切れ込む。外側をケアしていた大森はこの藤吉の一瞬の動きで藤吉の背中を追うような格好となってしまう。中から吉川がカバーに走り藤吉がドリブルするコースへスライディングしたが、藤吉は吉川の足が出てくるよりちょっとだけ早く、ボールをちょこんと浮かせた。佐藤洋平は足を前にして体を投げ出していったが、藤吉の蹴ったボールはそのわずかに上を越えていった。なんと、仙台先制である。吉川が横から入ってきたことでGK佐藤には藤吉の姿がブラインドになったのではないかと思うが、かといって、吉川の立場からすれば、あのプレーはやむをえない。藤吉がたった一人で、コンサドーレの守備を崩してしまった(この藤吉のプレーは敵ながらあっぱれというよりほかない)。
先制した仙台はほぼ全員でゴール前を固めはじめた。コンサドーレは、ボールを持っている時間は長いのだが、いかんせん、ゴール前へ入れてもらえない。29分、ハーフウェイ付近から森下のフリーキックはゴール前の曽田へ、曽田がヘッドで折り返したボールをフリーの小倉がシュートも小針が左足一本をかろうじて残して止める。32分、吉瀬アウト、中尾イン。34分、堀井アウト、新居イン。35分、自陣から森下-田渕と縦につなぎ、田渕のスルーパスに新居が鋭く飛び出すもシュートはGK正面。38分、右の新居からのクロスに、大森がゴール前に走りこんでシュートを放つもクロスバーの上。曽田は前線に残ったままで、大森が最終ラインに下がる。
39分、中盤でボールを持ったコンサドーレがどうにもしようがなくて後ろへボールを下げると、テクニカルエリアに出っぱなしの柱谷監督が怖い顔をして何かを叫んだ。気持ちは分かるが、しかし、スタンドの高い位置から見ていると、ただ闇雲に前へ向かっていったところでとてもゴールを割れるようには思えなかった。サイドチェンジを試みようが何をしようが、仙台の選手たちが自分たちのゴール前から離れようとしないのだからどうしようもない。あえていえば、遠めからシュートをどんどん打っていくべきではないかとは思ったが…。
45分(記録上は後半44分)、シルビーニョと中尾が揉みあい、中尾にイエローカード。48分、その中尾が、ハーフウェイから少し自陣に入ったところから前方左へロングパス、新居が相手選手2人の間を抜けてこのパスを受けた…のに、中尾に対する千葉のファウル(アフタータックル?)でレフェリーが試合を止めてしまった。千葉にはこのプレーでイエローカードが出たから、見過ごすには危険なプレーということで笛を吹いたのだろうが、それにしても、もう少し、アドバンテージを見てほしかった。
試合終了、0-1の敗戦。結果的には、前半、圧倒的に攻めまくる中で点が取れなかったことが大きかった。すばやいチェックで相手に攻撃の形を作らせず、スピードのないセンターバックの裏を快足自慢の堀井と平間がねらう-そのねらいは当たっていただけに、なんとも惜しい敗戦だった。リーグ戦序盤の、惜しくもなんともない状態からすれば、これでもずいぶん進歩しているのは確かなのだが…。
数は少なくても声の大きさでは仙台に負けていなかったコンササポ | 前半19分、小倉選手のミドルシュート |
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曽田選手が藤吉選手と競り合う | 最後まで攻め続けるもゴールは遠く… |
後半ロスタイム、中尾選手にイエローカード | 敗戦に肩を落とすコンサ |