文/武石淳宏、写真/大熊洋一
“岡ちゃんのホームラストゲーム”
札幌ドームにセレッソを迎えたリーグ最終戦。岡田監督のホーム最後のゲームとなり、多くのサポが足を運んだ。
夏には「やっぱりサッカーは空の下でやるもんだよな」などと御託を並べていた僕も友人たちも、本格的な冬を前にドームの屋根に感謝しながらのサッカー観戦となる。来年のW杯の頃には、またバカな僕たちは「こんないい季節にどーして屋根の下で・・・」などと言い出すのだろうけど、今の時期、見る方もやる方もこのでかい屋根に感謝するしかない。
ゲームの方はたいした見せ場もなく、定番のロスタイムの失点で敗戦。コンサらしいといえばコンサらしい最終戦だった。いろいろなハンディを抱えながらこの戦力で残留を果たしてくれたのは、本当によくやったと思うが、J1に定着していくには、まだまだこれからという感じだ。ぱっとしないゲーム内容に、感動的であるはずのセレモニーをどこか冷めた気持ちで見つめてしまい、「来年もがんばってほしいなぁ」としみじみ思った。
ゲーム後の監督あいさつには、さすがにいろいろな思いがこみ上げてくる。ただ、「このチームは結局、最後の最後まで監督が主役なんだなぁ」という無力感を覚えたのも事実。3年前「まだ色がついていない」ということでコンサを選んでくれた岡ちゃん。予想されたこととはいえ3年を経てコンサドーレは見事に岡田色に染まり、それは監督にとってひとつのジレンマだったのかもしれない。いつまでも「岡田のコンサ」ではダメだという監督のメッセージはその通りだけど、「あと1年」やってほしかったという思いも残る。
- コンサスタメン
- GK 藤ヶ谷
- DF 名塚、古川、大森
- MF 田渕、今野、和波、森下、山瀬
- FW 播戸、黄川田
- コンサ途中出場
- (MF野々村(45分、名塚)、MF伊藤(45分、山瀬)、MF森川(76分、田渕) )
- セレッソスタメン
- GK 下川
- DF 斉藤、鈴木、室井
- MF 山内、尹、田坂、杉本、森島
- FW 岡山、大柴
- セレッソ途中出場
- (FWワグネル(57分、岡山)、MF大久保(69分、杉本)、MF布部(75分、尹))
このスタメンを見れば、およそゲームの展開は予想がついてしまうというものだ。ただ、勝負には何が起こるか分からないし事故のようなゴールもある。監督のためにもなんとか勝ってほしいと思った。だがしかし、始まってみるとやはり予想通り。3月10日、大阪長居ではどっちが昇格チームか分からなかったが、この日はどっちが降格チームか分からない。開幕戦のお返しという訳でもないのだろうけど、メンバーを揃えたセレッソはいいサッカーを見せていた。まぁ、3月の開幕時とはメンバーがずいぶん違うし、お互いほとんど別のチームと言ってもいいかもしれない。
降格決定後、「別にサッカー人生が終わるわけではない」と淡々と語った田坂からは元日本代表の意地とプライドが伝わってきた。「監督のために勝利を」と気合いが空回りするコンサとは対照的に、降格ショックを吹っ切ったかのようなセレッソの小気味よいサッカーには、「力みの消えた意地」が感じられた。森島、田坂、尹と揃った中盤はJ1でも決して低いレベルにない。FW大柴もキレがあったし、開幕時はいなかったDF室井も効いていた。2列目から飛び出す森島の運動量とスピード、田坂のポジショニング、尹のゲームメイクはやはり1枚上。層の薄さと主力の故障に泣いたセレッソだったが、こうしてある程度メンバーが揃うと「どうしてあんなに勝てなかったのか?」と不思議になる。コンサドーレは中盤を完全に支配され、セカンドボールはことごとく奪われ、苦し紛れにロングボールを放り込むだけのサッカー。黄川田は相変わらずボールが足につかず、故障明けの山瀬もいつもの運動量がなかった。見え見えのカウンター、というか、カウンターとも呼べないような単調なロングボールにセレッソDFは難なく対応していく。
コンサドーレは珍しく後半の最初からメンバーを代え、積極的に勝負にでる。ハーフタイムに監督の檄もあったのか、後半から激しく攻め、リズムをつかみかけるが、やはりウィルを欠くコンサドーレは決め手がない。セレッソも負け続けた頃がウソのように集中の切れないデフェンスを見せるが、攻撃ではスペースを生かし切れず、手負いのコンサを攻めきれないままゲームはダラダラ流れていく。コンサドーレは優津樹の奮闘が目に付いたくらいで、終盤、大久保を投入したセレッソが徐々にペースをつかみ始める。初めて生で見る大久保だったが、ホントいい選手だ。「なんとか延長に持ち込めば、流れも変わるかな」という期待も虚しく、波状攻撃に耐え切れず、ロスタイムに大柴のゴールを許し、ジ・エンド。
まぁ、このメンバーでは仕方ない。本当は0-3くらいで負けてもおかしくなかったかも・・・。J1デビューとなったGK藤ヶ谷はよくやっていた。ミスもあったけど、1対1の決定機にタイミング良く飛び出すなどよくがんばっていた。コンサドーレはゴールの臭いは全くなく勝てる気はしなかったけど、それでもイレブン全員の必死さは伝わってきた。監督のこともあったのだろう、みんな精一杯がんばっていた。ただ、がんばっても勝てる気がしないというのは少々悲しい。そもそもスポーツに怪我はつきものなのに、ちょっとレギュラークラスが離脱してしまうと、まともに戦えなくなるという現実。チーム力は毎年少しずつ底上げしていくしかないが、そんな現実に元代表監督が3年もつき合ってくれたのだから、やはり感謝するしかないと思う。
「このチームは将来、ビッククラブになる可能性がある」と監督は言ってくれた。それは決してリップサービスでないだろうし、サポとしては素直にうれしい。すいか隊の皆さんの活動には本当に頭が下がるし、昨年3億もの金を集めたサポの熱意を思うとやはり大きな可能性を秘めたチームだと思う。ただ、「可能性はあるけど金はない」というのも現実。今はビッククラブなんて雲をつかむような話はとりあえずおいといて、まずはJ1に定着するチームになってほしい。今のシステムでは、J1チームのうち下位2チームは必ずJ2に落ちていく。どんなにいいサッカーをしても勝てなければ落ちていく訳で、冷静に考えたらまた降格することもあるかもしれない。勿論、降格は二度とゴメンだけど、「一喜一憂できるチームが存在するだけでも幸せ」と思うくらいの方がいいかもしれない。つい5、6年前には、北海道にプロサッカーチームなんて誰もが半信半疑だった訳だし、こうして今J1にいるだけでもすごいことだ。いずれにしても、こんな貧乏チームに惚れてしまったのだがら、少々のことではジタバタしないで、それぞれができるサポートを続けていきたい、と思う。
岡ちゃんは去り、確実にひとつの時代が終わる。サッカーの監督として3年は短くないし、監督にとってとても濃密な3年だっただろう。サポとしても思い出はいろいろあるが、僕が今だに忘れられないのは、昇格を決めた昨年のベルマーレ戦、サポーター席に向かって疾走するジャージ姿の岡ちゃんだ。珍しくインタビューにぶっきらぼうに対応し、「もういいでしょう」と言わんばかりにカメラとマイクを遮り、赤く染まったサポーター席に向かって一目散に走り出した岡ちゃん。全速力(?)でサポ席に向かうジャージ姿に胸が熱くなった。それは、「平塚行こうぜ」と友人に誘われながら結局テレビ観戦したことを、心から後悔した瞬間だった。CSで解説していた宮沢ミッシェルも感極まり、思わず言葉を詰まらせていたことを思い出す。
99年はスーツ姿でピッチに立つこともあった監督だけど、あれは正直、さまになっていなかった。この日、最後のホームゲームということで、「スーツ着てきたらどうしよう?」なんて友人と心配したのだけど、そこはさすがベストジャージスト、いつも通りジャージ姿で登場してくれた。ゲーム後のサンクスウォーク、ピッチをゆっくり一周するジャージ姿に、昨年平塚で、サポ席に向かって走るあのうれしそうな岡ちゃんが思い出された。1年も前のことなのに「やっぱりあの日は平塚に行くべきだったなぁ」と、またまた後悔の念が湧いてきたホーム最後のジャージ姿だった。
満員御礼。こんなところにも臨時?の立見席が。 | 先発メンバーに外国人選手がいないのは99年10月の川崎F戦以来 |
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リーグ戦最後の指揮をとる岡田監督 | セカンドステージMVPとして表彰された大森選手 |
試合後、挨拶する岡田監督 | ホーム側ゴール裏で行なわれた岡田監督の胴上げ |