文・写真/大熊洋一
2-5。スコアだけみれば大敗そのものだが、僕は、見ている間も、終わってからも、それほど落胆することはなかった。アウェー、それも、今季のコンサにとっては初めて体験する圧倒的なアウェーの雰囲気での格上(現在の順位はともかくとしてやはりエスパルスは格上でしょう)との対戦であるにもかかわらず、守備的になることなく、真正面から堂々とぶつかっていった結果なのだから、大敗したからといってけっして悲観的になる必要はない。むしろ、1-4となってから播戸のゴールで1点を返したこと、2-5となってからでも野々村に代えて黄川田を入れ最後の最後まで攻めつづけたことは、大いに評価できることなのではないか。5失点の中身にしても、そのうち3失点はPKとアレックスのFK、残る2点にしてもアレックスがいなければ入っていたかどうか分からない。同じ日本平で行なわれた98年Jリーグの開幕戦(1-4で敗戦)では無力感とはいわないまでもかなり大きな差を感じさせられ、自分の気持ちを無理やり奮い立たせながら帰ったことを記憶しているが、今回はそんなことはまったくなかった。へんな話だが、大敗にすがすがしさすら感じたほどの、コンサドーレの戦いぶりであった。
(メンバー)
[清水エスパルス]GK1真田、DF2斉藤、11森岡、3古賀、MF25市川、7伊東、4戸田、13平松、8アレックス、FW9安永、18バロン(R:20黒河、21高木、12吉田、15久保山、17横山)
[コンサドーレ札幌]GK1佐藤、DF3森、14古川、6大森、MF2田渕、7野々村、8ビジュ、10アウミール、18山瀬、FW11播戸、9ウィル(R:21藤ヶ谷、4森川、20和波、19伊藤、16黄川田)
コンサドーレは負傷の名塚に代わって古川が入ったほか、アウミールが久々の復帰。昨シーズン序盤も名塚がいなかったことを思えば、ほぼベストメンバーが戻ってきたと考えていいだろう(と、開始前には思っていたのだが、負傷明けのアウミールはさすがにきつかったか…)。
16時過ぎ、エスパルスのキックオフで試合開始。いきなり播戸と野々村が相手を右タッチライン際へ追いこみスローインを得ると、ウィル-山瀬とボールが渡って山瀬がシュート。ここまで開始からわずか40秒足らず。その後も、左サイドでウィルとアウミールと大森がトライアングルを作ってのすばやいパス交換から相手ゴール前へ迫るなど、昨年の開幕戦(鳥栖戦)をちょっと思い出させるほどのコンサドーレの流れるような攻撃が続く。前回のアウェーゲーム(神戸戦)同様に今回も抑え気味に入るのかと思ったら大違いで、まるで思わず「おお、今日は最初から行くねぇ~(^^)」とつぶやいてしまったほど。もっとも、攻める気持ちが強すぎたのか、6分に大森が安永への危険なタックルで早速イエローカード。大森は、この後もいつ2枚目をもらうかと心配になるほどハードな当たりを続けた。
前節(G大阪戦)では中盤までボールをもらいに戻ってくることの多かったウィルが、この試合では、播戸と2人で前線に残り続けた。そのウィル、7分にはタッチライン際で相手選手3人に囲まれながらも巧みにボールをコントロールしながら全員を抜き去った。まるでウーゴ・マラドーナをみているかのようなおもしろさ。
10分、左サイドでアウミールが相手ボールを奪い、前方のウィルへ。ウィルから播戸、前を塞がれた播戸が戻して山瀬、山瀬が少し角度をつけてウィルへと送り、ウィルのシュートはゴール左にはずれる。12分、ハーフウェーから少しだけ相手陣に入ったところでのFKをビジュが左サイドへ軽くはたき、アウミールからふたたびビジュ、ビジュから前方の山瀬を経由して播戸、播戸から山瀬、山瀬からふたたび播戸でやや右に位置した播戸がグラウンダーのシュートを対角線上に放った。GK真田がよく反応して指先にボールを当てるも、はじいたところへ詰めた山瀬がGKの位置を見ながら左へまわりこんでゴールへ蹴りこみ、コンサ先制。
これでまた1-0で逃げ切りかなと思いきや、15分にエスパルスにゴール前フリーでシュートを打たれると(佐藤の正面で助かった)、17分には後方からのロングフィードを追いかけてタッチラインと平行に走ってきた市川を大森が倒してしまいエスパルスのPK(僕はメインスタンドのこのプレーのすぐ前あたりで見ていたのだが、確かに大森の腕が多少市川に接触してはいるものの、PKとはやや厳しすぎる判定かなと思った)。しかし、さすが佐藤洋平、アレックスが蹴ったPKをセーブ!も、はじいたところを詰めてきた安永にきっちり決められてあっという間に同点である。
かような具合で、ここまではほとんどノーガードの打ち合い状態。互いに中盤のチェックがほとんどなく(とりわけエスパルスのディフェンス時の寄せは遅かった)、コンサドーレは自由にボールをまわしてウィルや播戸へボールを預けることができた。一方のエスパルスはマイボールになったらとにかく両サイドへ出し、中央からはまったくといっていいほど攻めてこない。それに対するコンサドーレのディフェンスは、4バック(相手ボール時には田渕が最終ラインまで下がる)の手前までは自由にやらせている感じで、野々村とビジュのポジションはかなり前目だった(というか、野々村・ビジュと最終ラインの間隔が広くなっていたから結果的に最終ラインの前までは自由にやらせることになっていたような気もするが…この辺は名塚不在の影響か?)。そうしたことと関係があるのか、はたまた市川に裏に出られてPKをとられたことがきっかけなのか、同点に追いつかれた後、アウミールと山瀬がポジションを入れ替えた(アウミールがトップ下、山瀬が左サイド)。復帰第一戦のアウミールでは市川のケアは厳しいということか…。
21分、コンサドーレが自陣でマイボールをキープしているときに、佐藤洋平が何やらものすごい大きな声で叫び(ほとんど「絶叫」)、それに気づいた野々村が佐藤までボールを大きく戻した。なるほど、互いにばたばたしている試合を落ち着かせようというねらいなのだろう。スタンドから見ていれば試合がばたばたしていることは分かるが、ピッチ上ではなかなか分からない。その辺の試合の流れを冷静に見きわめてチーム全体を落ち着かせようとした佐藤はさすがで、実際に、この後しばらくして試合が落ち着いてきたのだから、これで試合に勝っていればこのコーチングがこの日の最高のファインプレーになっていたかもしれない。
23分、右タッチライン近くから野々村のFK、ペナルティエリア内ゴール右で受けた播戸が相手選手2人を背にしながらもボールをキープし、振り向きざまのシュート。枠をとらえることはできなかったが、エスパルス守備陣からすればあの状況でシュートまで持っていかれてはまずいだろう。24分、今度はエスパルスがゴール前へ放りこんだボールが、ジャンプした古川の頭を越えてしまい(古川のこの種のプレーはときどきありますですね(^^;))、ゴール前フリーの安永のシュートはかろうじて右にはずれる。25分にはバロン-安永とつながれてゴール前で伊東がフリー。どうにも危なっかしい状況が続く。26分、タッチライン際で次のプレーを選択しようとしたアレックスに対し、田渕が体を入れ、アレックスからボールを奪う。さすが田渕、アレックスを相手にしても1対1の対応は強い。29分はコンサ。田渕からのロングフィードを、ゴールを背にした播戸がヘッドで流し(ほとんど「かすった」程度だが)、ウィルが相手選手2人を背負いながらも強引に前へ出てコーナーキックを得る。
そろそろ試合が落ち着いてきたかなと思いはじめた32分、ゴールライン手前から田渕がクリアしたボールがアレックスの正面に入ってしまった。アレックスはそのまま縦に入り、大森(だと思ったのだがあんなところに大森がいるわけはないから野々村か?)が足を出すもアレックスが難なくクロスを上げ、ゴール前中央で安永がコンサDFをつぶす間に伊東が左から右へと流れファーサイドできれいに合わせた。エスパルス、逆転。アレックスの質の高いクロスボールと伊東の質の高い動きを誉めるべきではあるが、しかし、元はといえば田渕のパスミスから始まっているのは残念だった(前節で木場のクリアミス→コンサCK→播戸先制ゴールとつながったことの逆をやってしまった…)。
36分過ぎ、ゴール裏で和波がアップを開始。逆転したエスパルスは徐々にボールがつながるようになってきて、コンサドーレが押され始めた。昨年のリーグ戦で2点とられたときは全部負けてるんだよね、などと言いながらも、これはもうとにかくこのまま前半を終わってくれと願っていた。無理して攻めに出ると簡単に失点してしまいそうな、そんな雰囲気の前半ラスト10分間であった。
ハーフタイムでコンサメンバー交代、アウミール→和波。和波が左サイドに入り、山瀬は中央に戻った。アウミールは45分間が限界だったということなのだろう(しかし、アウミールの状態が、市川に抜けられたぐらいでポジションを代えねばならぬほどであったなら、最初から和波で行ったほうがよかったんじゃないかと思わないでもない-もちろん、本当のところは、一緒に練習している人たちでなければ分からないのではあるが)。ところが、後半開始早々、痛恨の3失点目を喫してしまう。前半2点目の田渕のミス→アレックスのクロスのイメージが強かったのか、森がなんでもないボールをあっさりとタッチへ出してしまい(確かにアレックスは20メートルぐらい前方にいたのだが…)、そこからのスローインからのプレーでアレックス-バロン-アレックス-バロンのパス交換でバロンに豪快なゴールを決められてしまった。アレックスがこの試合で初めて中央へ切れこんできたこともあり、コンサ守備陣はまったく抵抗できなかった。もっとも、このときのアレックスは一昨年のJリーグMVPのときのような切れ味で、これはコンサだろうとどこだろうとちょっと止めるのは難しかったかもしれない。
それでもまだまだあきらめないコンサ。3分、山瀬のスルーパスに播戸が抜け出すもシュートは惜しくもサイドネット。7分、ビジュが自ら持ちこんでシュート(が、ヒットせず-外に野々村も余っていたのだが)。8分、播戸が中央から左のウィルへ出し、ウィルが森岡をかわしてクロス、播戸が走りこんで黄川田のようなダイビングヘッドをみせるもシュートはクロスバーのわずかに上。2点差とはいえ、まだまだ十分にいける!と期待させてくれる攻撃が続く。
それだけに、9分のアレックスの直接FKによる失点は痛かった。FKを与えた直接の原因は、ペナルティエリアのすぐ外側で安永の切り返しに遅れた野々村の足が引っかかったことなのではあるが、それを責めるのは酷だろう。そう思えるのは、アレックスのFKがあまりにもお見事だったから。壁の外から巻いてくるあのFKは、久しぶりに「いいもの見せてもらった」という感じ(いや、こんなことを言うとゴール裏でコンサを応援しているサポのみなさんには申し訳ないが)。あれは誰がGKをやっていても止められないだろう。
12分、コンサ2人目の選手交代、大森→伊藤。大森はイエローカードを1枚もらっていたから、この交代は納得である。ピッチサイドに立った伊藤優津樹のそばで「19」の数字が掲げられたときにはゴール裏の一部(試合前にも全体とちょっと違うコールをしていた辺り)からブーイングが起きたが、「いとうゆづきせんしゅがはいります」とアナウンスされると、スタンド全体から拍手が起きた(しかし、エスパルスが負けていれば拍手など起きていないはずで、あまりありがたいことではない)。伊藤は山瀬と並んで2列目の左に入り、和波が左サイドバックに下がった。4バックにして、全体をコンパクトにするということなのだろう。3点差になってもまだ攻めるか、コンサ!
3点差で見る側の緊張感が薄れてきた(=僕が、ということではなく、スタジアム全体が、という意味)ところで、ウィルが違う意味での見せ場を作ってくれた(^^;)。16分、後方からのロングボールに対しウィルが猛然と走り込み、ペナルティエリアのかなり前まで飛び出してきたGK真田と激突した(これは真田の大ファインプレー)。倒れたままのウィルに対し、その直前でウィルにかわされた森岡がつかみかかった(シャツをちょっと引っ張った、という程度ではあるが)。にらみ返すウィル。すかさず、アウェー側ゴール裏から「ウィル!ウィル!」の大コール(そう、ここではまずウィルを気分よくさせなければいけない!が、これでウィルが余計にヒートアップしないかと少し心配でもあった)。あわてて集まってくる両チームの選手(ウィルのなだめ役はなぜかアレックス)。結局、アシスタントレフェリーが出てきてウィルのファウル(真田との衝突)となったが、森岡が警告を受けていてもおかしくない場面ではあった。この後、プレーが再開されても森岡とウィルが何か言い合い、播戸が森岡を、斉藤がウィルを制するという光景がみられた(播戸は大人になったなぁ…それにしえも、播戸になだめられる日本代表主将というのもずいぶん情けない話でないかい?(^^;))。
20分、エスパルス陣内深くでの横パスを播戸がインターセプトし、追いすがる森岡を振りきってシュート、コンサ2点目。23分、左からのウィルのFKは真田がかろうじてはじき出す(枠ぎりぎり!)。24分、ビジュが強引なロングシュート。エスパルスは中盤でのファウルが多くなりはじめ、再び試合がばたばたしてきた。あと2点、もしかすると4-4なんてとんでもないスコアもあるかもしれないぞ…。
そういうときにまた決められてしまったアレックスのFK。26分、4点目と同じような位置でやはり安永へ今度はビジュが危険なタックルを仕掛けてファウルをとられ、アレックスに軽く放りこまれてしまった。なんと、5失点である。
それでもまだいくのかと驚いた28分の選手交代、野々村→黄川田。野々村を休ませるねらいもあったのかもしれないが、それにしてもFWを1枚増やすということは、まだ攻め続けるという指揮官のメッセージにほかならない。その期待にこたえ、30分に黄川田がいい仕事をする。中央のウィルからのパスを左サイドで受けると、ゴール前中央へやわらかいボールを入れ(黄川田にこんなクロスが蹴れるとはオドロキ!)、山瀬が走りこんだ。山瀬は惜しくも半歩及ばなかったのだが、体のどこかに当たってさえ入ればコンサドーレの3点目だった。34分は早いリスタート(=ちょうど昨年6月の浦和戦でアウミール-伊藤-ビジュで決勝点を奪ったときのように)から、伊藤がゴール前へ送ったボールにウィルが頭から飛びこんでゴール!かと思ったがこれはオフサイド。認められていれば、珍しいウィルのヘディングでのゴールとなるところだったのだが…確かに、明らかなオフサイドであった。が、少しでもスキがあれば行くぞというこの姿勢、ねらいは、けっして間違っていないと思う。
この後もコンサドーレは攻め続けた。その分、守備が手薄になってエスパルスの決定的チャンスも生んでしまったのだが、佐藤がいつもながらの好セーブで傷口が広がるのを防いだ。ロスタイムに入ってから、ルーズボールを追いかけて相手ゴールライン前へスライディングで飛びこんでいった播戸のプレーが、この試合のコンサを象徴していたように思う。
僕は、この試合は、0-0のスコアレスドローになるのではないかと予想していた。まさか、こんなすさまじいスコアになるとは思ってもみなかった。それだけに、こういう攻撃的な試合になっても一歩も引くことなく戦ったコンサに驚かされた。5バック3ボランチといった選択肢だってあったろうに、試合開始早々から攻撃的な姿勢をとりつづけ、最後までそれを貫き通した。僕は、1-3となった時点でも「このまま負けるより攻め続けて1-4とか1-5になったほうがいい」とすら思っていた(にしても、本当に5点もとられるとは思っていなかったが)。しつこいようだが、5失点のうち3失点はPKとFK。こういう試合もできるのだということをみせてくれたコンサに、むしろ、今後の期待は高まる。
大事なのは、連敗しないこと。次のFC東京戦は、逆に、守備的でもいいから勝ち点を得る。これで誇りが失われたとは思わないが、それでも、まずは次の試合にどんな形でもいいから勝って、追い詰められない状態で厚別開幕戦を迎えたい。そうすれば、相手が鹿島アントラーズであろうとも、名前に負けることなどないはずだ。
エスパルスゴール裏に登場したフラッグ。 | 負けじとコンササポもフラッグを掲げる。 |
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大量失点は喫したがコンサドーレは最後まで攻め続けた。 | コンササポは最後まで声援を送り続けた。 |