文・写真/大熊洋一
神戸ユニバといえばJ1参入決定戦。あの、梶野の不用意なタックルで先制点となるPKを奪われた試合は、コンサドーレにとっては忘れることのできない試合である。アウェー側ゴール裏に掲げられた「98年の借りを返す」の横断幕が、札幌サポーターの気持ちを代弁している。もっとも、あの参入決定戦に出場していた選手のうち、今もコンサに残っているのは田渕、黄川田(左サイドバックの黄川田…今となっては懐かしいというより信じがたい(^_^;))、深川の3人だけだし、ヴィッセルに至ってはたった一人、布部だけである。だからというわけではないのだろうが、巷の話題は「カズ、岡ちゃんにリベンジ」。これは、正直いって、どうでもいいことだ(札幌的にいえば、むしろ「シジクレイvsウィル」あるいは、因縁の「シジクレイvs播戸」のほうが注目の対決だろう)。
(メンバー)
神戸:GK1掛川、DF3鈴木、5シジクレイ、17土屋、MF4サントス、10望月、7吉村、2松尾、20ダニエル、FW8布部、11カズ
札幌:GK1佐藤、DF3森、5名塚、6大森、MF2田渕、7野々村、26今野、20和波、18山瀬、FW11播戸、9ウィル
両チームともほぼ同じスタイルといっていい3-5-2の布陣。コンサドーレは、ベンチ入り16人のうち15人までが前節と同じメンバー(異なるのはリザーブに黄川田の代わりに伊藤が入っただけ)。引き続きビジュが出場停止、アウミールが負傷で欠場だが、前節でそれを補って余りある活躍を見せてくれた今野と和波が今日もそのまま先発メンバーに名を連ねている。
試合前。ゴール裏は、人数、声の大きさとも、アウェーのコンサ側が圧倒している。しかも、98年の借り云々があるわけでもなかろうが、試合が始まる前から「♪俺たちの誇り、赤黒の勇者、…」や「♪播戸ゴール、播戸ゴール、ら~らららららら~」などといった具合に次々と歌が飛び出し、テンションの上がり方がいつもよりかなり早い感じがする。試合開始5分前、ホーム側ゴール裏から出た「サッポロ粉砕!」のコールに対しては「神戸は少ない!」とお返し(まるでFC東京みたいだな(^_^;))。
17時、選手入場。札幌ゴール裏から「♪さ~っぽろぉ、おれ~たちのさっぽろぉ~、ともにたたかおう、…」の歌声。記念撮影を終えた選手たちが円陣を組む。いつもながらの光景ではあるが、傾きかけた西日がなんとなくいつもと違う雰囲気を醸し出してくれる。
コンサドーレのキックオフで試合開始。いったん右サイドへ下げたボールに対し、カズと布部がものすごい勢いでダッシュしてくる。そして、その勢いそのままに、序盤、ヴィッセルが猛攻を仕掛けてきた。4分には左サイド(神戸からみた右サイド)をカズに突破され、クロスボールは中央で待つ松尾のヘッドにどんぴしゃ。シュートがクロスバーを越えて事無きを得たが、この後も左の松尾、右の吉村にやらっれぱなし。だからなのか、それともこちらが原因なのかはわからないが、対するコンサドーレは両サイドの田渕と和波が完全に最終ラインに吸収されてしまって5バック状態。もっとも、アウェーゆえ最初は抑えて、ということなのだろう、前節では序盤から積極的にプレスをかけていった播戸とウィルも、今日は相手がハーフウェイから自陣に入ってくるまではボールを追うことをしない。
ようやくやってきたコンサドーレの最初のチャンスは7分、左サイドで今野が相手ボールを奪い、和波→今野→ウィルとつないだところでウィルがミドルシュートを放つ-が、枠からは大きくはずれたうえに力もなく、GK掛川が難なくキャッチ。12分にはコンサドーレのロングフィードをクリアしようとした神戸DFが足を滑らせてボールが播戸に渡りビッグチャンスかと思われたが、播戸のシュートは掛川がセーブ、こぼれたボールを山瀬-ウィルとつなぐもウィルのシュートに対しては神戸DFがしっかりと体を寄せ得点ならず。
この後はしばらく試合が落ち着いたものの、ボールのキープ率は圧倒的に神戸。コンサドーレは、21分にこれまた左タッチライン際で今野、和波、ウィルの3人が相手へプレッシャーをかけて奪ったボールを今野→ウィルとつなぎ、ウィルからいいクロスボールが入ったがシジクレイが播戸の前に入り播戸触れず。逆に22分、神戸の吉村に左サイドを突破され、クロスボールはまたしても松尾のヘッドにピンポイント(→サイドネット)。
25分、前線へ送ったボールを播戸が拾い、播戸がGK掛川と1対1になったが、掛川が勢いよく飛び出したところに播戸がひざ蹴りを食らわしてしまい、播戸にイエローカード。そして、コンサドーレは、ここから10分以上にわたり、神戸の波状攻撃を断続的に受けることになる。ほぼフリーでシュートを打たれながらコンサドーレの選手がシュートコースに体を投げ出してブロックしたこと2回、それ以外の場面でもゴール前に集まったコンサドーレの選手たちが文字通り体を張ったディフェンスを続けた。98年にJリーグに上がったばかりの頃を思い出すような場面の連続である。ただ、幸いだったのは、前がかりになった神戸の選手が最前線に3~4人で一直線に並んでしまったり、ボールのないところでの選手の動きがほとんどなかったり、といったことで、ゆえに、野々村や今野が出足よく飛び出すことで攻められている割には決定的チャンスを作らせずに済むことができた。今さらながら、野々村のバランス感覚には感心させられたし、また、今野の球際の強さも大したもの。こと守備だけに関していえば、ビジュの穴などといったものは微塵も感じられなかった。
38分、久々のコンサドーレの攻撃はカウンターアタック。最終ラインから一気に播戸へボールが渡り、和波とのパス交換から播戸がシュートを放つもクロスバーの上(公式記録ではこれがコンサドーレの最初のシュートか?)。続いて39分、ゴール正面ペナルティエリアの外側でウィルが切り返しからミドルシュート(ホント、あの体には似つかわしくない俊敏な動きをするものだ(笑))、シジクレイがシュートコースに体ごと飛び込んで得点を阻む。さらに43分には、自陣深くの右タッチライン際から田渕が前方へ大きくフィード、神戸3バックで左を担当する土屋がジャンプしたがボールは土屋の頭の上を越えてしまい、前線で待つ播戸にボールが渡る。播戸が相手ゴールを目指して走り出したところを中央から出てきたシジクレイが確信犯的にブロックし、シジクレイはイエローカード。これで得たFKをウィルが直接ねらったが、ボールはクロスバーのわずかに上を越える。
というわけで、前半は、ほとんど攻められ続けていた、という印象。アウェーだから無理に勝ちにいかなくてもいい、ということなのだろうが、それにしても、山瀬がすっかり消えてしまっていたのが気になった。また、後日の報道では「前半途中から4バックにしてリズムを取り戻した」といったような監督・選手のコメントがあったが、バックスタンドで見ていた僕の目からは、後半の途中までは、4バックというよりも5バックのように見えた(3バックでなかったことだけは確かだが)。
後半、コンサドーレの最初のチャンスは7分。今野が相手に競り勝ってボールを奪い、いったんは神戸にボールを奪われかけるもそこへ駆けつけた野々村がふたたびマイボールにして右前方の播戸へ美しいロングパス、播戸が折り返したところへ和波が飛び込んだがシュートは神戸DFがブロック。今日初めてといってもいいコンサドーレのきれいな組み立てだったが、しかし、これも単発に終わってしまい、15分過ぎからはまたも神戸のペース。16分、左サイドで吉村から最終ラインの裏へと抜けた望月にパスが渡り、望月のセンタリングをカズがヘディングシュート(→クロスバーの上)。19分から21分にかけては神戸の波状攻撃。もう、いつゴールを割られてもおかしくない、といったほどの迫力だったが、しかし、ここもコンサドーレは体を張ってゴールを死守した。
22分、大森が野々村とのワンツーで前へ出ると中央をドリブルでぐいぐい進み、ボールを前方の播戸に預ける。播戸は山瀬とのワンツーでGKとの1対1を作りだし、コンサドーレの決定的チャンス!しかし、播戸のシュートは当たりそこねで、ゴールマウスを大きくはずしてしまう。
23分、両チームを通じて最初の選手交代はコンサ(和波→伊藤)。27分、神戸ダニエルのスルーパスで布部がきれいに裏に抜け出たが佐藤洋平がいち早く飛び出してセーブ。29分、コンサコーナーキックからこぼれ球を森が右足でシュートもはずれ(ああ、あそこにいたのが播戸だったら…)。32分、カズがダニエルとのワンツーで抜けるもシュートは田渕が足を出してブロック。34分、野々村からウィル、ウィルから播戸、ゴールを背にした播戸がふたたびウィルに預け、ウィルは左からファーサイドへアーリークロスを送るとそこで待っていたのは山瀬。山は胸でワントラップしてからシュートを放ったが神戸のDFに当たり、またしてもゴールを割れない。さらに38分伊藤からオーバーラップしてきた大森、大森からゴール前中央のウィル、ウィルが右の山瀬へ出すも山瀬はDFに囲まれシュート打てず。39分、相手のパスをカットした名塚がこの試合初めてドリブルで上がり、右の山瀬にはたくと山瀬からふたたび名塚。名塚は後方で中央寄りにまわった山瀬へ預け、山瀬から左前方フリーの播戸、そして播戸の強烈なミドルシュート!が、掛川がパンチングで見事なセーブ。
43分過ぎだったか、上空からはらはらと落ち葉のようなものが降ってきた。ん?なんだなんだ?と思っていると、ほどなくして風が強まり始めた(というよりも、それまでは無風だったのだから、風が吹き始めた、というべきか)。遠くを見ると、アウェー側ゴール裏スタンドの後方で、落ち葉だかゴミだか分からないがとにかく風に煽られたいろんなものが上空で渦を描いている。おいおい、まさか竜巻でも来るんじゃあるまいな、これは試合を止めないとまずいんじゃないか…そんなことを言っていると、今度はぱらぱらと雨が落ちてきた…と、雨具を用意する間もなく、ざぁーーーーーっと大粒の雨、そして、突風といっていいような風が襲ってきた。バックスタンドをパンフレットやらお弁当の殻やらいろんなものが飛び交い、観客が屋根のある通路へと逃げ惑う。まるでこの世の終わりが来たんじゃないかと思われるような阿鼻叫喚の世界(いや、ホント、マジで怖かった)。それでも試合は続いている。メインスタンド側でボールのすぐ近くに板のようなものが転がったときは、さすがに試合を止めないとまずいんじゃないかと思ったが、レフェリーから何か指示が出ることもなく、そのまま前後半90分が終了。コンサにとっては今季初の延長戦である。
突然の嵐はほどなく収まり、延長戦が始まる頃には雨も風もほとんどなくなっていた。延長開始時、コンサドーレは今野→瀬戸に交代(後半39分には山瀬→深川も交代している)。延長戦開始。ひたすら攻められまくるコンサ。僕はもうこの辺から「今日は無理に勝ちに行かなくてもいい、引き分けでいい」と思い始めていた。ここまでの4試合で3勝1敗の成績を残していることを考えれば、何も、アウェーのこの試合で無理に勝ち点2を取りに行く必要はない。たとえ勝ち点1であっても、このまま守りきったほうが今後につながるものも大きいはずだ。
延長前半8分、コンサドーレのカウンター。左の大森から中央の伊藤、伊藤からやや右のウィル、ウィルからさらに右の瀬戸、瀬戸から右タッチライン際の田渕へとボールがつながり、田渕のアーリークロスにゴール前中央で深川のヘディングが炸裂!しかし、惜しくもわずかに左にはずれてしまった。12分には大森の突破から瀬戸がロングシュート、クロスバーの上にはずれたが、その積極的な姿勢にゴール裏からは「はるき!はるき!」のコールが起きる。
延長後半に入っても、攻め続ける神戸、耐える札幌、という構図は変わらなかった。12分、佐藤洋平の蹴ったボールが神戸の選手の足元に入ってしまい正面から森(神戸の森=延長後半からダニエルに代わって登場)にシュートを打たれるという大ピンチがあったが、ここは佐藤洋平が好セーブ(というか、もともとは自分のミスなのだからそのぐらいしてくれないと困る-この場面、鹿島時代のチャンピオンシップで中山に遊ばれたのを思い出した人も少なくないのでは?)。
その後はこれといった見せ場もなく、結局、0-0のスコアレスドローで試合終了。観戦する側としては後半の終盤の嵐で集中力を削がれた部分はあったが、選手は最後まで集中を切らさず、引き締まった、いい試合を見せてくれた。つまらない凡ミスがなかったことや、両GKが好プレーを何度も見せてくれたこと(これは、シュートがちゃんと枠に行っているからでもある)が、最後まで試合の緊張感を保ってくれた。0-0などという結果だけで考えると得点シーンがなくてつまらない試合だったかのようにも思えるが、この試合に限っては、そんなことはまったくなかった。むしろ、この試合のスコアレスドローは、いかにもサッカーらしい結果だったとすらいえると思う。
ホームチームを上回る数のコンササポ。中央弾幕には赤地に白で「98年の借りを返す」。 | いまいち迫力に欠ける?神戸サポーター。 |
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コンサドーレは体を張ったディフェンスで最後までゴールを割らせなかった。 | 途中から増殖して見た目の赤黒となったコンササポ(左側の黒は播戸の母校のサッカー部部員)。暗くて分かりにくいですが・・・ |