[第1節]in長居:セレッソ大阪戦

文/武石淳宏

“2001、J1初陣 in 大阪”

『あしぃたがあるさぁ、せれぇ~そおおさかぁ♪』

2001年3月10日。いよいよ新世紀のコンサドーレがスタートする。期待が大きく膨らむが、言いようのない不安も消えない。午前10時頃、関西国際空港着。一度難波まで出てお好み焼きで腹ごしらえをする。そして、目指すは長居スタジアム。地下鉄御堂筋線、長居駅に着いたのは、12時半過ぎ頃か。J1の開幕戦、それもアウェイということで、少々身構えたのだが、駅を出てもアウェイという緊迫感は感じられない。勿論、ピンクのマフラーを巻き、ピンクのフラッグを抱えるセレッソサポは多いが、我らがコンササポも結構目に付く。まぁ、駒場とは違うということか・・・・・・・。

午後1時前にはスタジアムに入る。随分空席が目立ち、ゴール裏もコンサ側が圧倒的に多く、ちょっと拍子抜け。「一体どういうことなんだ、ホームみたいだぞ」と思いながら「どうせならいい席で見よう」と、バックスタンドのほぼ真ん中に座る。キックオフ1時間前だというのに、並ばずにこんないい席に座れるなんて、しかも2,500円(前売り)。厚別なら今季から前売り4,000円の指定席である。長居は来年のW杯の会場になるだけあって、厚別など全然比較にならない立派なスタジアムなのだが、この料金差は一体何なのだろう。

とことろで、セレッソサポは分裂していると聞いてはいたが、本当に二手に分かれて陣取っているので、つい笑ってしまった。どっちが主流でどっちが非主流かわからないが、一方はゴール裏正面(以下「セレサポA」)、一方はゴール裏からバックスタンド側の屋根に近い2階席付近に陣取っている。(厚別でいうと電光掲示板のあたりか;以下「セレサポB」)

キックオフ30分前になるがコンサイレブンは姿を現さない。どうしたのだろう、セレッソはもうかなりウォームアップのピッチをあげている。「体はもう温まっているのだろうか」と心配しながら、緊張感が高まってくるのを感じる。多くの、いやすべてのコンササポにとって98年の出来事は完全に過去のことではない。「あぁ、あんなこともあったなぁ」と、何の痛みも感じずに語ることのできるコンササポはいない。あの悲劇を「思い出」にするには、やはり名実ともにJ1のチームにならなければならない。そう、この開幕戦は重要なのだ。

それにしても、コンサイレブンは現れない。と思っていたら1時40分頃か、やっと洋平がディドとともにゆっくり登場。コンササポの拍手と歓声、そして洋平コールが長居スタジアムの屋根に反響する。「いやぁ、うれしいなぁ!ホームみたいだぞ」

そして、両チームの練習も佳境を迎えた頃、突然、場違いな歌声が聞こえてくる。「うん、なんだろう?」どうやら屋根付近に陣取るセレッソサポBがなにやら歌い始めたのだ。どこかで聴いたメロディーだと思ったら、最近ウルフルズがカバーして再び脚光を浴びている坂本九の名曲、そうあの某缶コーヒーのCMに流れている「明日があるさ」である。どうやら替え歌のようだが、肝心の歌詞は聞き取れない。ここ長居は屋根のせいか音響がよくない。聞き取れるのは、「あしぃ~たがあるサ♪」のところで「せれぇ~そぉおおさか♪」と歌っている部分だけである。「せれぇそぉおおさかぁ、せれぇそぉおおさかぁ、せれぇ~そぉおおさかぁ♪」声を張り上げるのはセレサポBのみで、セレサポAは白けきっているような雰囲気である。分裂は深刻そうだ。

キックオフ前の緊張が高まりつつあるこんな時になんでまた「明日があるさ」なんだよ?と、幾分出鼻をくじかれた感じで調子が狂ったが、厚別でもコンサドールズだのYMCAだの、およそサッカーのキックオフ前とは思えないことをやってしまっており、人のことはいえない。例えばイタリア人だったら、キックオフの前、ピッチでYMCAなど絶対やらせないだろう。ピッチは戦いの場なのだ。ってなことを考えているうち、ついつられて「せれぇ~そぉおおさかぁ♪」とつぶやいてしまった。いかん、ダメだぞ、こんなことじゃ!でも、元歌は結構好きなんだよなぁ。中村八大は天才だ。

『エメがいないコンサ、そして西澤がいないセレッソ』

コンサスタメン

  • GK:洋平
  • DF:森、名塚、大森
  • MF:田渕、野々村、ビジュ、アウミール、大黒
  • FW:播戸、ウィル
  • (ベンチ:GK藤ヶ谷 MF山瀬 伊藤 DF森川 FW深川)

セレッソスタメン

  • GK:河野
  • DF:清水、斉藤、藏田、山内
  • MF:金、原、森島、尹
  • FW:大柴、盛田
  • (ベンチ:真中、西谷、岡山、他)

コンサドーレは昨年のチームをベースにした2001年のベストメンバーと言っていいだろう。山瀬がベンチスタートというのが気なるが、彼からスタメンを奪った大黒に注目しよう。深川友貴の名がアナウンスされた時、「へぇー、深川ってまだやってんねん?」という女性サポの声が聞こえた。深川にとっては懐かしいピッチだろう。そういえば梶野もどこかでこのゲームを見ているのだろうか。

セレッソの方は西澤が抜けたうえ、廬、田坂、下川を欠く布陣はさすがに迫力が感じられない。そして、西谷、岡山がベンチスタートなんて、ちょっと首を傾げてしまう。西谷は敵ながら非常にいい選手だ。スピードがありフリーキックもいい。恐らく岡田監督も結構好きなんじゃないだろうか。攻撃面ではなんといっても廬がいないのは幸運である。かつて韓国代表で森島と並び攻撃の起点になるが、日本のサッカーをよく知っているという感じがするし、日本語もうまく、チームの柱という感がある。そして、守備面ではなんといっても田坂の不在が大きい。個人的には非常に好きな選手なのだが、今日はいない方がいい。昨季セレッソの快進撃は、西澤と森島が主役だったが、陰でそれを演出したのは終始安定していた田坂だったといえないだろうか。田坂といえばベルマーレ時代、室蘭でマラドーナをマンマークしてイエローを貰っていたシーンを思い出すが、今日彼がいたら俺王様がイエロー貰うかもしれない。この主力を欠いたセレッソには十分勝てるチャンスがある。負けても五分で戦えなければ、J1でやっていくのは厳しいだろう。今季のコンサを占う意味でも重要なゲームだ。

午後2時。キックオフ。

やはり、コンサには硬さがみられる。開始早々に尹に左サイドを突破され、簡単にマイナスのグランダーパスを返される。コーナーキックとなるが、早く落ち着いてほしいと願う。序盤、ゲームはほとんどコンサ陣内で展開され、セレッソペースで進む。やはりJ1のスピードにとまどっているのだろうか?10分頃か、金の素晴らしいサイドチェンジから左に展開、セレッソDFがフリーでボールを持つ。このあたりはさすがJ1で、対応が遅れたアウミール、大森はついていけず、ドリブルで切り込まれ、そのままミドルシュートをうたれる。山内だろうか、シュートは平凡だが、完全にセレッソペースである。その直後、ペナルティエリアの右外側からのFKを与える。キッカーは尹で、さすがいいボールを蹴る。洋平が盛田と接触しながらも果敢に飛び出す。どうやらキーパーチャージだ。倒れ込む洋平は痛そうだが、大丈夫だろうか。「何でキーパーチャージやねん?自分(洋平)から勝手にぶつかったやん!」というヤジが後ろから聞こえる。やっぱりここはアウェイなんだ。

完全にボールを支配されるが、しかし、コンサも落ち着きを失うことはなく先制される雰囲気は感じられない。このままこらえてくれれば、コンサドーレのペースになるだろう。明らかにセレッソは、序盤で点を取りに来ている。ここをしのいでくれれば勝機はあるぞ。

流れは徐々に変わる。今日のコンサドーレは安定している。失点の恐怖はなぜかほとんどない。エメルソン頼みのチームからちゃんと生まれ変わっているということが伝わってくるのがうれしい。「大阪まで来た甲斐があった」ととりあえずほっとする。ボールは支配されているが崩されてはいないし、チームとしての一体感が感じられる。一方、西澤がいないセレッソは、昨年第1ステージの快進撃がウソのようである。エメがいないコンサと西澤がいないセレッソ。チームとしては明らかにコンサドーレがまとまっている。セレッソは、西澤がいないチームをまだきちんとイメージできていない、という感じだ。

20分頃か、セレッソDFコンビネーションの乱れからラッキーなコーナーキックを得る。野々村が蹴り込み、名塚がヘッドで叩きつけるが、ボールはキーパーの手に。そして直後、今度はウィルが切れ込み、倒され、ペナルティエリアのすぐ外でフリーキックを得る。なかなかいい位置である。流れは変わりつつある。ウィルはクロスとみせて直接シュートを打った。ボールに勢いはなかったが、確実に枠をとらえており、河野がパンチングで再びコーナキックとなる。大分時代は脅威だった俺王様のフリーキックだが、今季はコンサを救ってくれるかもしれない。再び野々村が蹴り、ゴール前の混戦からこぼれたところを森が強烈ボレー!素晴らしいシュートだったが、惜しくもキーパー正面。周囲の大阪人からは悲鳴とため息が・・・・・。どうも、河野のパンチングは中途半端で付け入る隙が十分にありそうである。

さて、気がつけば、周りの空席はほとんど埋まり、すっかり大阪の人(セレッソサポ)に囲まれた状態になっている。漏れ聞こえる会話から察するに、要するに相手はどうせコンサなんだから朝から並ぶ必要なんてないし、空模様を見ながらゆっくり競技場に来たという感じである。そんな訳でキックオフ前にはあんなに空席が目立っていたのだ。ジュビロやマリノスじゃあるまいし、有名な選手もいないし、「まぁ焦ることはあらへん」、という感じである。しかし、今日はコンサにもチャンスがあるかもしれない。内容は悪くない。昇格チームがなめられるのは仕方ないが、余裕しゃくしゃくのセレッソサポに一泡吹かせることは決して不可能ではないと思われた。

コンサもペースをつかみ、両者一進一退の様相を呈し、ゲームは拮抗してくる。明らかに序盤に点を取りにきていたセレッソは、ゲームプランが崩れ、そろそろ焦り始めてくれるかもしれない。今日のキーマンは野々村だ。「本当に野々村か?」と思うくらい信じられない切れ味で、中盤でボールをさばいている。

20分過ぎ頃か、大黒が右にはたいて田渕がオーバーラップ、いいクロスを放り込む。フリーの播戸がドンピシャでヘッド!惜しくも河野にはじかれるが、田渕のクロスといい播戸のヘディングといい素晴らしかった。

コンサドーレが主導権を握るにつれ、ゴール裏もヒートアップしてくる。敵地で聞く「赤黒の勇者」は何ともいえずうれしいものだ。知らない土地で旧知の友人に会ったときのようで、なんかほっとする。一緒に歌いたいのだが、すっかりセレッソサポに囲まれ、さすがに気が小さいので心の中で歌いながらコンサドーレの勝利を祈る。一進一退が続くが、キックオフ後のようにボールを支配されることはなく、盛田のポストプレー、大柴のスピードもそれほど脅威ではない。しかし森島を核とした早いパス交換からの突破に、FKを与えるシーンもある。セレッソも徐々に盛り返している。

30分過ぎ、いいボールカットから得意のカウンター。セレッソDFの枚数が足りず、これはチャンスかもしれない。アウミールがドリブルで持ち込み、一気にゴール前へと思ったら、なんとアウミは横パス、それもイージーなミスパスで、対応しようとしたウィルがつい尹を引っかけてしまう。そして、なんと、なんとウィルにイエローカードが。あ~、最も見たくないもを見てしまった。「それにしても早すぎるよ。」開幕第1戦にして、カードコレクターの本領発揮とは。しかし、この場面はウィルよりアウミールのイージーミスに原因があるように見えた。展開によっては決定的な場面になったのに、あのミスパスはあんまりだという気もする。ウィルへのイエローを見て周囲のセレッソサポは一気に盛り上がる。

お互い攻め合うがコンサドーレは安定感がある。初めて見る大黒も結構ボールに絡んでいる。しかし、播戸、ウィルとのコンビネーションはまだまだという感じだ。しかし彼は悪くない。セレッソには昨季のような迫力はないし、守備もサイド攻撃への対応が遅れがちで、何とかなりそうな気配である。そして、もう前半も残りわずかという頃、大森がクロスをあげ、例によって河野の中途半端なパンチングから、ボールがゴール前でこぼれる。チャンスである。キーパーは飛びだしているぞ!何本かシュートの後、こぼれたところをウィルが押し込む。やったぞ!なんと先制ゴールである。時間はもう45分になろうかという前半終了間際である。これは非常にいい時間帯だ。サッカーをやったことのある人間なら分かるが、この時間帯の失点ほど堪えるものはない。最初主導権を握りながら得点できず、ずるずるペースを失い、そして前半終了間際に失点。セレッソにしてみれば典型的な負けパターンというやつである。さすがに先制されるとは考えていなかったのか、セレッソ側はイレブンもスタジアムも重い空気に包まれる。周囲のセレッソサポの余裕も心なしか失われてきた。一方コンサゴール裏は、歓喜の旗が揺れ大きな歓声に包まれる。今日のコンサゴール裏は最高である。アウェイジャックとまではいかないが、応援では完全に相手を圧倒している。

決してなめていたわけではないだろうが、セレッソは目が覚めたように反攻に転じる。ロスタイムはわずかと思われたが積極的にくる。金や森島の惜しいシュートなど、いやな時間帯の失点に動揺した風でもなく、果敢に攻めてくる。このあたりはさすがだった。格下と思っていた相手に先制され動揺は小さくないはずなのにすぐ立て直し攻めてくる。一方のコンサドーレは先制の余韻に浸り、ふっと抜けたエアポケットのような状態に落ちた一瞬があった。あの時間帯に森島のシュートが決まっていたら、流れはどうなっていたか分からない。洋平様々だ。彼は集中力を失っていなかった。

『戦いは続く...』

後半が始まる。両チームとも選手交代はない模様。ハーフタイムに副島監督は何を話したのだろう。激しく檄を飛ばしたのだろうか。そして岡田監督は何を指示したのだろう。

セレッソもさすがにこのまま引き下がりはしないだろう。しかし、エメの幻影を完全に払拭した新生コンサにも十分チャンスがある。心配なのは、先制したことで、守りの姿勢にはいってしまうことだ。前半は、序盤こそ攻め込まれはしたが、積極的で早いプレスと運動量で全体としてはコンサドーレのリズムだった。攻められても浮き足立つことなく、チームとしてまとまりのあるゲーム運びができていた。これは後半に入っても続けてほしい。98年、同じように昇格したシーズンの開幕戦は日本平でのエスパルス戦だったが、先制したとたん守勢にはいってしまい、本気になったエスパルスにコテンパンにやられたことがあった。あの時と比べるとコンサドーレのチーム力もアップしているが、苦い思い出がちらっと頭をかすめる。昨季なら1点で逃げ切れたかもしれないが、いくら主力を欠く相手とはいえ積極的な姿勢は忘れないでほしい。

セレッソは攻勢にでてくる。しかし、コンサも決して守勢になることなく応戦している。後半早々に森島がリタイアし西谷と交代する。続いて、岡山が入り盛田がアウト。この交代はよく分かる。そもそも、西谷も岡山もなぜスタメンでなかったのかよく分からなかった。森島をどう生かし、どう攻めるのかはっきりできないままセレッソの前半は終わっているし、盛田も森の素晴らしいデフェンスの前にほとんど仕事ができていなかった。西谷は非常に好きな選手だが、ここで登場されるのはちょっといやな気がする。盛田は背も高いし、身体能力も高そうなのだが、なんていうかプレーがつながっていなかった。ひとつひとつのプレーは結構いいのにそれらが連続してつながっていかないような気がする。ポストでもヘディングでも単発のプレーをするだけなら、いいものがあるのに、次どう動くのか、一端ボールを受けた後どこに走って、どういう仕事をしたらいいのか、よく分かっていないような気がする。いいものを持っているのにもったいない、という感じだった。西谷、岡山の投入にコンサドーレは山瀬の投入で対抗する。スタメン落ちの山瀬は「調子が悪いのか」と心配したが、一段とたくましくなったところをみせてほしい。初めて見る大黒はいい選手だったが、もう少し周囲との連携を高めていくことができれば面白いと思う。ウィルや播戸とのコンビネーションがよくなれば攻撃のオプションが増える気がする。

ゲームは一進一退。セレッソは点を取りに積極的にくるがコンサもいいリズムで動いている。ただ、案の定、西谷が仕事をきちんとこなし、何度か左サイドを突破されるシーンが見られる。やはり、西谷が突破し中央で大柴や岡山が待っているとか、西谷、大柴が絡んでスピードにのって攻められる方が怖い。そんな風に西谷らを使ったゲームメイクを尹にされたらちょっといやである。いずれにしても主力の欠場に加え、西谷、岡山がベンチスタートで助かったという気もする。

先制したことで守勢に回ってしまわないか、という心配は無用だった。コンサドーレは相変わらず積極的なプレスが効いていて、ボールを奪い一気にゴール前にもっていくシーンもある。中盤がズルズル下がることもなく、運動量も落ちていない。時折大森が果敢にオーバーラップを試みる。大森がここまで積極的にでられるのは、中盤がかっちりしている証拠だ。今日は野々村が非常にいい。冷静だし、キレも抜群だ。セレッソは相変わらず攻め手を欠いているが、西谷が入ったことで攻撃にアクセントができた感じがする。岡山もさすがに盛田よりはマシで、尹とのパス交換から攻め込むシーンも見られる。そして、セレッソは真中を投入、3枚目のカードを切ってきた。アントラーズ時代スパーサブとして活躍していた頃を思い出すが、最近のパフォーマンスはどうなのだろう。彼はパワーがあり、噛み合えば西谷とは違う怖さがある。

残り15分。何とかしのいでほしい。お互い攻め合うが、セレッソは単調でコンサドーレの運動量も落ちていない。ロングボールが大柴につながり、大柴がスピードにのって切れ込むシーンもあるが、決定的に崩されることはない。セレッソは攻撃を組み立てられていない感じだ。今日のセレッソだったらこのまま何とか逃げ切れるかもしれない。

と思っていたら、突然ゲームは大きく動くことになる。セレッソに攻め込まれ、コーナーキックから洋平がボールをこぼすなど、落ち着かない場面が続き、ボールは左サイドの金につながる。素早く金がゴール前に放り込むとその先には、岡山がフリーで待っている。ゴール前のDFは十分足りていたが、思わずはっと息を呑む。次の瞬間、岡山は後ろからのタックルであっという間につぶされる。一瞬何が起きたのか分からなかった。しかし、スタジアムは大歓声に包まれている。最初ビジュかと思ったのだが、どうやらアウミールの後方からのタックルでPKのようだ。なんということか・・・・・・。歓喜に沸くセレッソサポの中で、絶句してしまった。「やっぱりゴール裏で応援すべきだった」PKで追いつかれるシーンをこの席で見るのは辛い。

組織的なデフェンスと素早い攻撃という得意のパターンで、コンサドーレはしっかりリズムをつかんでいた。セレッソの攻撃は単調で、コンサドーレのプレスに戸惑い、攻めあぐねていた。このゲームはコンサドーレのものだった。それが、あと15分というところで・・・。はっきりとは見えなかったのだが、コンサDFはきちんとゴール前に揃っていた。あのようなタックルをして、PK覚悟でファウルをする場面では決してない。アウミールは、豊富な運動量と守備をサボらない献身的なプレーを身上とし、ある意味ブラジル人らしくない選手で、コンサドーレのサッカーにはなくてはならない存在である。しかし、時折、とんでもなくしょぼいミスを犯しそれが失点につながることがある。昨季、厚別開幕戦や、秋の厚別での大分戦で、彼の信じられないようなヘボいミスから失点したことがあった。そんなシーンが脳裏をかすめる。とにかく全く意味のないPKだった。「仕方ない、気を取り直そう」と思った時にはスコアは1-1となり、すでにボールはセンターサークルにセットされようとしていた。

スタジアムの雰囲気は一変する。アウェイでゲームを支配しておきながら、こんな失点をしていては、時にそれは逆転劇のきっかけとなる。直後、山瀬が相手ゴール前に切り込み、ペナルティエリア内で倒されるが、今度はファウルの笛は鳴らない。いやな展開だ。

しかし、コンサドーレが1点をプレゼントしたようなものなのに、今日のセレッソはそのラッキーを生かせない。ちぐはぐな攻めは同点後も変わらない。やはり普通のチーム状態でないということなのだろう。こんな展開では往々にして流れが一変するものだが、今日のセレッソはそんな展開に持ち込むこともできない。これは何とかなるかもしれないぞ。とりあえず落ち着いていこう。

そして、サポも選手達もベンチも、延長を意識し始めた後半終了間際、決勝点は生まれた。右サイドに張ったウィルにボールが渡り、DFをものともせず振り切り角度のないところからペナルティエリア内に切り込む。いいぞ、ここでシュートだ!と思わす身を乗り出したら、ゴール前に素晴らしいタイミングで入ってきた播戸にエンジェルパス。播戸が決めてゴォール!!!!歓喜のコンサゴール裏。静まり返るセレッソサポ・・・・。それにしても、ウィルのボールキープは力強い。播戸とのコンビも上々ではないか!

『さぁ、大阪で祝杯をあげよう!!』

勝ったから言えることだが、いいゲームだった。勝負だからやはり勝つことが大切だ。サッカーには、勝っても内容はひどいということがよくあるが、今日は内容も非常に良かった。無意味なPKは悔やまれるが、流れの中で崩され、決定的な場面をつくられることはなかったし、コンサドーレの組織的な守備は十分J1でも通用することが分かった。何よりエメルソンの穴をきちんと克服していたことが非常にうれしかった。やはり、あれだけのストライカーを擁して1年戦ってきたチームが、彼抜きの戦い方を確立するには、少々時間がかかるのではないかと実は思っていた。そこが心配でつい大阪まで来てしまった訳だが、心配には及ばなかった。それは、勿論ウィルの存在が大きいのだが、短期間でのこの成長はやはり監督によるところが大きいのだろう。岡田監督は本当にきっちり仕事をする人である。一方のセレッソはさすがにこれだけ主力が欠けると、少々お気の毒という気がする。大きなお世話かもしれないが、西澤と森島はやはり離れてはいけない二人だったのではないだろうか。勿論西澤がスペインで活躍することは日本のサッカーにとって意義のあることなのだが、彼にはやはり森島というパートナーが必要であるような気がした。かつてのウーゴ&デリーのように、二人でやることで1+1が2以上になるようなコンビだったのではないだろうか。西澤というパートナーを失った森島も心なしか元気がなかったし、チーム全体としても西澤抜きでどう戦うのかが結局明確になっていない。エメルソンは1年だったけど、西澤、森島は長い間セレッソを引っ張ってきており、セレッソにとって西澤の穴を埋めることは、エメルソンを失ったコンサ以上に大変なことなのかもしれない。盛田は可能性を秘めていると思うが、西澤の代役はあまりに荷が重すぎる。

今日の結果はtoto番狂わせのひとつになったかもしれない。しかし決してフロックではなかった。J1でも十分やっていけるような気がする。ただ、相手主力の欠場に助けられたのは事実だし、世間やマスコミもそんな風にしか評価しないのだろう。確かにそれは間違いではないのだが、決してそれだけではないし単なるフロックでもない。コンサドーレはしっかり自分たちのサッカーをやり、勝利した。それを次節もみせてほしいし、今日の勝利が決してフロックなどではないことを証明してほしいものだ。とにかく2001年、最高のスタートである。

ところで、第2ステージでセレッソと対戦するのはいつなのだろう。その時セレッソはベストメンバーを揃え、開幕の借りを返すべく向かってくることだろう。そこに西澤が復帰していないことを期待するが、我がコンサも降格レースとは無縁の堂々たる「J1のチーム」として受けて立ちたいものである。

今日は大阪の街で妻とゆっくり祝杯をあげよう。おいしいお酒が飲めそうである。

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