コンサ戦術解析10(今年のコンサが目指したもの)(1998年版)

新たに7人の選手を迎え、今年のコンサドーレはJ一年生として一体何を目指したのでしょうか。 どの様な戦術で、臨もうとしたのでしょうか。コンサドーレは、Jに向けて、まずフォーメーションの改造に取り組みました。昨年までの3-5-2を、4-4-2に変えることにしたのです。


と、その話しをする前に昨年までのフォーメーションのおさらいをしておきましょう。コンサドーレは昨年、3-5-2というフォーメーションを採用していました(上図の右側)。これは、DF3人、MF5人、FW2人というフォーメーションです。コンサドーレが97年JFLで、このフォーメーションを採用したのは、96年シーズンで見られた得点力不足を解消するのが一つの目的でした。コンサドーレは、96年シーズンには、4-4-2のフォーメーションで戦いました。4-4-2というのは、DF4人、MF4人、FW2人というフォーメーションです(下図)。4-4-2を、3-5-2にすることにより、中盤のMFの数が一人増えることになり、攻撃力のアップをねらったわけです。
この狙いは当り、96年JFLに比べ、97年JFLでは、コンサドーレの攻撃力は倍増しました。もちろん、得点力が倍増したのはフォーメーションの変更のおかげだけではありません。シーズンオフの間の選手補強も大きな要因ですが、そうだとしても、フォーメーションの変更がコンサドーレの大躍進に寄与したことは紛れも無い事実です。

いいことずくめの3-5-2システムのように見えますが、コンサドーレの3-5-2には、大きな欠点があります。それは、攻撃力のあるチームと戦ったときに、MFの位置にいる両サイドのウイングバックが押し込まれて、DFが5人の5-3-2のフォーメーションになってしまうことです(上図の左側)。こうなってしまうと、中盤が3人になってしまうために、4-4-2のフォーメーションに比べ、逆に攻撃力が落ちてしまいます。

用語的には、3-5-2と、5-3-2の違いはほとんど無く、両ウイングバックが実際にどこら辺にポジショニングするかということだけです。一般的には、5-3-2とか呼ぶことは無く、守備的になっても3-5-2(あるいは3バック)と呼びます。日本代表がW杯仏大会で採用した3バックシステムは、まさにこれで、日本代表は従来4バックだったわけですが、これをDFラインの後ろに一人リベロを置く形にして、5人でDFラインを形成する守備的なフォーメーションです。
で、コンサドーレの場合、守備的にしようとしてこの3-5-2を採用したのではなく、4-4-2に比べて攻撃的にしようとして採用したわけだから、このような状況はうまくないわけで。本当は、常に中盤を厚くしておきたいわけです。コンサドーレの3-5-2が、5-3-2の様になってしまうのは、両ウイングバックに原因があります。両ウイングバックのレギュラーの、田渕、村田の両選手は元々、DFのサイドバック出身です。そのため、押し込まれると、守備第一に考えてしまうようです。ウイングバック(サイドバック)のポジションは、相手チームのウイングバック(サイドバック)とのタイマン勝負のようなところがあって、どっちがより攻撃的にでて主導権を握るかというせめぎあいを、技術的にも、精神的にも試合中繰り広げています。これには、多分に性格的なところがあるようで、FW出身のウイングバックは概して守備が苦手なせいか攻撃的です。ただし、どっちがいいとは一概に言えません。

ところで、Jリーグに昇格した場合、相手チームの攻撃力は、JFL時代に比べて高くなることが確実です。従来の3-5-2システムだと、97年JFLで見られたように両サイドが押し込まれて実質5-3-2になってしまうことが、予想されます。これでは、中盤が3人になってしまって、中盤を相手チームに支配されてしまいます。中盤の二列目にいるマラドーナから、前線のバルデスにボールを出すパターンが多いコンサドーレの場合、中盤を支配して、マラドーナにいかにパスの出しやすい状況を作ってやれるかに、得点の鍵があります。そこでコンサドーレは、Jのチームと戦うために、中盤が3人になってしまうことが予想される3-5-2から、中盤を4人で構成する4-4-2に変更することに決めたのでした。
すなわち、コンサドーレは中盤を厚くし、ゲームを支配することを目指し、がっぷり四つの戦いをJリーグチームに挑むことに決めたのでした(相手の実力が上で押し込まれてしまうことは多々あるかもしれませんが)。イタリアなどが得意とする、閂をかけたようにゴール前を厚くし、がちがちに守って、カウンター狙いという戦法では無く、中盤を支配し、二列目から前線にパスを通すサッカーを目指したということです。

ところで今回は、4-4-2と3-5-2のシステム全体の説明や一般的な特徴は説明しません。過去の戦術解説を読んでください。これらのフォーメーションを知らない人は、とりあえず、戦術解析3話を読むといいと思います。3-5-2がコンサドーレの中でどの様に生かされてきたのかは、戦術解析5話、6話に書かれています。

コンサドーレが今オフにJリーグに向けて目指した4-4-2は、中盤を菱形(ダイヤモンド型)にするものです(右上図の右側)。守備的MF(ボランチ)を一人置いた形になるので、中盤はシングルボランチとか呼ばれます。MFが担当する中盤は、4-4-2にしても3-5-2にしてもいろんな形を取ります。コンサドーレが採用したシングルボランチのダイアモンド型の他に、ボランチを二人置く(ダブルボランチ)システムもあります(右上図の左側)。
それでは、シーズン前の練習試合などの、フォーメーションを見てみましょう。これで、フェルナンデス監督が当初、どの様な構想を抱いていたかわかります。

シーズン前の試合でのフォーメーションを示す。
各試合とも、4-4-2、中盤は菱形。選手名の下の()にくくられた
選手名は、交代で途中出場した選手。
98/02/19
札幌vsブエブラ
1-1
98/03/01
札幌vsパナマ代表
2-1
98/03/14
札幌vs横浜F
2-1


この時は、GKとDFはほぼ固定。DFラインは4バックスで、横に並ぶラインディフェンス。ペレイラと木山がセンターを務め、両サイドに村田、田渕が入ります。最後の横浜Fとの練習試合では、田渕は頬骨骨折の大怪我をしていたため、村主が右のサイドバックに入りました。今年は、左の村田に何かあったときは黄川田を、右の田渕の時は村主を、そのポジションに投入するようです。
中盤は、梶野あるいは古川をボランチにすえたダイヤモンド型。ツートップのすぐ下の、1.5から2列目にマラドーナが位置し、ゲームメイクを担当します。その両サイドを後藤、村主、鳥居塚らが固めます。FWは、バルデスが固定。その相棒をどうするかは、監督悩んだみたいですね。有馬、深川、吉原と使っています。4人目の外国人として補強されたバウテルは、そのオールラウンドプレイヤーぶりを発揮してか、MFやFWに入っていました。

DFは、4バックスのラインディフェンスを採用することにより、3バックスの時よりも守備ラインの安定化を計っています。一般に、マンツーマンの3バックスに対し、ゾーンで守る4バックスは、相手FWの動きが激しくてもラインが壊れないので、DFラインは安定すると言われています。また、4バックスは、3バックスに比べ、両サイドにフリースペースの死角が生まれないので、裏を取られにくいとされています。
横に真っ直ぐDFが並ぶ4バックスに比べ、くさび型になる3バックスでは、両サイドのバックスの裏に、オフサイドにならない大きなフリースペースが生まれます(右図)。Jリーグは、JFLに比べ、選手の動きやプレーのスピードが上がるので、それに対処する意味合いもあったのだと思います。従って、両サイドバックには、もちろんオーバーラップによる攻撃参加はさせますが、まず守備第一にということを求めていたと思います。
MFは、ボランチの位置に、DF出身の梶野や古川を起用しましたが、ここには、本来、半月板損傷で療養中の太田がいます。ツートップ下のゲームメイカーの位置には、ドリブル良し、パス良しのマラドーナが入ります。その両サイドを、後藤、村主、鳥居塚らが固めるわけですが、攻撃も守備もできる後藤、マラドーナのようにゲームメイクできる鳥居塚、豊富な運動量をもち二列目から前へ飛び出すことのできる村主など、性格の違うプレイヤーを時に応じて使い分けるようです。
FWは、バルデスが固定。その相棒は、上背がありヘッドの強いポストレイヤータイプの深川、身長もありながら駿足の有馬、バルデスのこぼれ玉への反応やDFの裏へでるのがうまい吉原と、こちらも性格の違うプレイヤーが揃っており、時に応じて使い分けるようです。

プレシーズンの試合ながら結果が出ていたので、このフォーメーションでJリーグに挑むことになっていました。ところが開幕直前になって、コンサにハプニングが訪れます。DFラインの軸に期待していたペレイラが怪我で長期戦線離脱を余儀なくされるという事態になったのです。そのため、開幕戦の清水戦は、選手の位置が少々入れかわることになりました。これは開幕1週間前のことでした。

で、このフォーメーションでJに挑んだコンサドーレがどうなったかは、次のお話で。

>>>>>> 戦術解析11へ続く >>>>>>

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