『横浜の渡辺さんの観戦記』
水曜日の「暗」と「暗」
開幕戦を「自ら引いてしまった」(フェルナンデス監督)サッカーで逆転で落したコンサドーレ札幌。落ち込む暇もなく迎えた第2節は王者鹿島との対戦。初のホームゲームは厚別でも室蘭でもなく、遠く離れた仙台スタジアム。初戦に比してまずまずの動きだったと観戦者に聞きましたが、結果は地力の差が出て1-3で敗北。バウテルのゴール1本に抑えられました。とはいえ、昨年のナビスコカップ準々決勝のカシマでの試合では0-7という屈辱的大敗を喫していただけに、このスコアの詰まりようは明るい材料と見ることもできるでしょう。
その頃筆者は横浜の自宅でBSのJリーグ中継を見入っていました。博多の森からの放送は「福岡-柏」。次節対戦する柏をじっくり分析するつもりでした。失礼を承知で言えば柏の戦力はかなりダウンしています。あの点取り屋エジウソンも活動家のジャメーリも去り、新外国人に託した前線は噛み合わず、幾つかの好機もフィニッシュにつながりません。それは前半20分という早い段階で元日本代表ボランチの下平を2枚目の警告→退場で失ってしまったせいかもしれませんが、とにかくこちらもさして優れているとは思えない福岡に苦戦。90分でも延長戦でも双方ゴールシーンがなく、決着がつかずPK戦の末やっと柏が勝ち点1を掴み取りました。最後までTVを見ていた自分をほめてやりたくなるような試合でした。
この時点で次節は「札幌が必ず勝つ」と決めました。なにせ遠く福岡で120分を戦った選手の消耗はかなりのものでしょう。さらに勝つには勝ちましたが2試合連続無得点。決定力不足は深刻で、しかも要の下平が次節は出場停止。これ以上コンサ有利の材料は無いといっていいはずです。
ただし…実はコンサも指令塔ウーゴが鹿島戦で2度の警告を受け退場。同様に次節はお休みになってしまったのです。長期の遠征で選手達の精神的疲労もピークに達しているでしょう。そう考えますと…うーん。おあいこでしょうか?
柏、札幌、双方にとって次節に大きな不安を抱え込むことになった水曜日の夜でした。
バタバタ3-5-2
この試合からコンサドーレは昨年JFLを制した基本戦術である3-5-2に戻しました。2試合で7失点の反省からマンマークを強化する一方で、攻撃面ではより両サイドの高い位置での勝負を主眼に置いたものと思われます。これに筆者は一抹の不安を覚えました。冗長な説明は省きますが、一般的に4バックは組織力が重視され、3バックは中盤までを含めた選手個々の高い能力(フィジカル面や戦術眼など)が要求されるシステムです。無論3バックにも組織力は必要ですが、誤解を恐れず一口で言えば「3バックは日本人向きではない」というのが筆者の持論です。コンサにおいて昨年3バックが成り立っていたのは、広い視野と確かな技術を持ったペレイラと中盤の底で獅子奮迅の動きを見せた太田がいたからであり、実際に彼らが負傷で戦列を離れた終盤戦は4バックのDFを敷いていました。柏戦においてはスイーパーの位置に古川が入り、2トップへのマーク(ストッパー)を木山と渡辺卓が受け持ち、中盤の底にバウテルを配し、その前の後藤、村主で組み立てて2トップのバルデスと吉原に託すという狙いでしょうか。もちろんGKはディドで両サイドの高い位置に田渕と村田が張り出します。一方の柏も3-5-2。ただしこちらは今年、西野監督就任以後の3バック変更。熟成に不安があります。
試合は早めにトップの外国人選手に当てたい柏と、バルデスをメインターゲットにして吉原と村主のスピードを生かしたい札幌の様子の探り合いからスタート。柏の2トップ…ドゥッダには木山が、シルバには渡辺が付いています。思ったほどサイドを使わずに中央に固執したような展開で時間が経過。ただし気になったのは札幌のファールの多さ。それも若干悪質なものが目立ちます。13分には田渕が後方からのチャージで警告(これは厳しい外国人審判だったら一発退場だったかもしれません)。その後の札幌ゴール前での柏FKの際には、壁を作っていた渡辺が早く動いてしまいこちらも警告の黄色い紙。これらが後の伏線になっていったとは思いたくありませんが…。
下平、ウーゴという中盤の重要な戦力を欠いた影響はやはり大きかったようです。双方欠いていたのではっきりとした形勢という面では現われなかったものの、柏は明神の1枚ボランチをサポートすべく酒井の位置がやや下がり気味になり、加藤や前線との距離が開き気味になっていたような気がします。札幌もウーゴの代わりを期待された後藤が、数回ゴール前までの進出で見せ場を作ってくれましたが、ウーゴのような「ため」を作れません。より正確に言えばためるべき場面で突っ込んでしまい、逆に勝負をかけてもいい局面で周囲の上がりを待ってしまったり。うまい具合に村主や吉原が走り回って作ったスペースを生かすことができません。せっかくのマイボールを簡単に奪われるシーンや、さして必要のないファールが双方目立ち「バタバタやってるなぁ」という印象を持ちました。
ところがそんな状況でもあっさりゴールは生まれるもので、19分、自陣ゴール前から後藤→左サイドの村主へと渡り、ドリブルで柏陣内に持ち込んで中央を上がってきた吉原に向けてクロスが送られます。が、呼吸が合わずコータは逆を突かれてボールに触れません。コータも村主も「しまった」と思ったこれが怪我の功名(?)。コータの動きに柏DF3人がつられ、バルデスをフリーにしてしまったのです。彼のストライカーとしての「嗅覚」が働いた瞬間、右足をぱっかぁ~んと振り抜くと、ボールはわずかにスライスしながら柏ゴールへ吸い込まれました。札幌先制です!
開幕の日本平に続くアウェイでの先制。前回はココから悪夢が待っていたわけです。今回もその後は柏に攻め込まれる場面が目立ってきます。とはいえ今度はさすがに「引いた」という感じではなく、純然と柏の意気が上がったものと思われました。3-5-2のウィークポイントである両WBの後方のサイドを狙う意図がはっきりと見えます。ただし、裏を取られること自体をさほど気にする必要はありませんでした。なぜなら同様に裏を狙われた昨年のJFL山形戦(山形)と違い、一回、中で組み立ててからサイドへ振る手順を柏は踏んできたからです。山形のように俊足選手をサイドに思いっきり走らせて、そこへ一本のパスをスパッと通して行くというスピードあふれる展開ではありませんでした。加藤の左足など、ひやっとするシュートも数本あるにはありましたが、前半はこのまま終了。…さて、後半の45分は長いぞぉ…。
札幌サッカーの「限界」?
前半の終わり頃から札幌もようやく左サイドの村田が攻撃に時間を割くようになってきました。バウテル、村主の精力的な動きは目を引き、守っても古川の落ち着きがチームを救っています。裏を返せば柏の攻撃がチグハグで脅威ではなかったとも言えるのですが。特に期待の新戦力であるFWドゥッダの仕事は目を覆わんばかりにひどく、帰国のための飛行機を予約した方がいいのではと心配になるほどでした。
さすがに西野監督の我慢も限界に達したのか、柏は後半開始からドゥッダといまひとつの出来だった明神を下げ、システムを変えて4バックにしたようです。中盤に大野を投入し支配率を高めるとともにサイド奥への進出に意欲を見せます。後半はエンドが変わって柏が狙うゴールは反対側。遠く彼方でボールが両サイドからポンポン放りこまれ、何度も札幌ゴール前を横切る様は「決まりっこないさ」と思ってはいても気分のいいものではありません。事実こういった形ではゴールを許さなかったのですが、後半31分の同点ゴールは、やはりサイドに基点を作られてのものでした。右サイドから渡辺光が大野に預けたボールを、中へ走り込んでグラウンダーのスルーパスを返してもらい、角度の厳しい位置からディドの牙城を破ったのです。開幕以来286分めに訪れた柏の今期初得点でした。沸き返る黄色いスタンド。すかさず「コンサドーレ・コール」で選手を鼓舞する赤い札幌サポ。されど札幌イレブンの落胆の色は明らか。この少し前の時間帯から少しづつ選手の意識は「もう1点取って安全圏へ」ではなく、「この1点を守り切ろう」にスライドしていったのではないでしょうか。
話は変わりますが筆者は昨年のJFLでの4敗のうち3敗をナマ観戦しております。東ガス戦はPK戦決着という「バクチ」で敗れましたので論外として、他の3敗には札幌が抱えた「問題点」、あるいは昨年のチームにおける「限界点」ともいえるものが顕在化していたように思えました。甲府に敗れた試合はスタミナを主にした「フィジカル面の限界」。マルクスのボール強奪→ゴールの判定から浮き足立った本田技研戦(現場は欠席でしたが後日ビデオで観戦)は「メンタル面の限界」。バルデスの高さを封じられ、サイド攻撃とカウンターを食らい失点を重ねた山形戦は「戦術面の限界」です。Jリーグで強豪と伍して戦う以上は、こうした限界点を底上げし、ちょっとやそっとの劣勢でも顔を出さないようにしなければならないと感じていたものでした。
J開幕の日本平ではこの3つが一度に噴出しました。勝ちを急いだ「精神面」に、相手に振り回されてスタミナを奪われた「フィジカル面」。執拗なまでのサイドアタックに崩された「戦術面」。…やはりJは甘くない…と感じたものでした。その記憶が1週間後、甦ります。コンサドーレの足が止まりはじめ、パスミスが増えてきた矢先の失点だったのです。それでもこの日のコンサドーレは逆転を許しませんでした。1点取って突き放して勝とうという意欲が見て取れます。すっかり足が重くなった後藤や村主を越えて、バウテルから長いパスが吉原やバルデスに渡ります。38分にバウテルからの縦パス一本でバルデスがGK土肥と1対1になる決定的なシーンもありましたが、シュートは土肥の右手に阻まれ大きなため息。切り返すか左足で浮かせる余裕が欲しかったところです。これもまた初勝利が遠いチームの精神的な弱さか…。
終盤は柏が押せ押せ。立て続けにコンサゴールに迫り、競技場には歓声と悲鳴が交錯します。ロスタイムに与えたCKから飛び込んできた石川のヘッドがエンドを割ったとき、後半終了の笛が鳴りました。延長戦です。
消えた初勝利
延長に入る頃から筆者は関東タイコ隊の石森くんが力の入れすぎで手を傷めたため、代わりにPK戦終了までタイコを叩きました。以前山形で「代打」を勤めたときにも惨敗していますので、やりたくなかったのですが…。
コンサドーレは疲労の色が濃い後藤と吉原を下げて、鳥居塚と深川を延長開始から起用。後半のうちに村田を下げて黄川田を投入していますので、「カード」を使い切ったことになります。もっとも、柏はそれよりもっと早く3人代えていましたけれど。
「攻める柏、耐える札幌」の図式は延長に入っても変わりません。相変わらずサイドからポンポンとクロスを送られて、なんとかはね返している状況。柏の攻撃は一本調子と言ってしまえばそれまででしょう。ですが「徹底」している怖さがありました。
対する札幌は…ここでまた新たなウィークポイントを露呈してしまいました。このチームは「カウンター」ができないのです。押されてひたすら耐える状況からボールを奪い返しても、柏ゴールに迫るまでにあまりに時間と手数がかかりすぎ、トラップミスやパスミスで途中で奪われて戻されて、また自陣ゴールを背に…の繰り返しです。昨年までのコンサドーレのにっくきライバルであった東京ガスを思い出していただくとわかりやすいでしょう。彼らがなぜ格上Jリーグチームとの対戦となった天皇杯で快進撃を見せられたのか。それは「カウンター」という伝家の宝刀があったからでしょう。攻めさせて攻めさせて相手が前がかりになって後方が手薄になった隙を突いて、マイボールを一気呵成に相手ゴールまで持って行く狙いです。自陣Pエリア付近から相手ゴールに向けたフィニッシュまで、およそ70~80mを10秒前後で完結できる戦術が確立されているのです。JFLにおいては圧倒的な戦績を残し、ほとんどの試合で攻め込み、むしろ守りに入った相手をどう崩すかといった試合運びを繰り返してきた札幌は、実戦でのカウンターを披露する機会も少なく、恐らくは練習すらまともにやっていなかったのではないでしょうか? (選手の顔ぶれや特性を見ても、カウンター向きのチームとは思えません)しかし劣勢に回ることが多くなると予想されるJでの今後の戦いにおいては、カウンターに磨きをかけることも必要であると痛感した延長戦でした。
話をピッチに戻しますと、延長前半も柏が押しまくり。バジーリオ(たぶん)のオーバーヘッドキックがゴールポストを直撃し、胆を冷やす場面も。15分が瞬く間に終わりエンドを替えての延長後半も似たようなもの。札幌バルデス、柏は長谷川がそれぞれ決定的な見せ場を作りましたが、ともにGKに阻まれます。ようやくつかんだ好機が11分のゴールほぼ正面約20mからのFK。…そして問題のシーンへと至るのです。
バウテルの右足から放たれたボールは、壁を越えてゴールポストを直撃。そのはね返りを右サイドから侵入してきた田渕がヘッドでゴール左隅へシュート。GK土肥が横っ飛びで阻もうとした瞬間、左サイドから突進してきた鳥居塚が左足でプッシュ。ゴールネットが揺れ、札幌の選手が次々に両手を突き上げガッツポーズ。視線を副審に移すと、足早に中央方向へ戻って来ています。オフサイドではありません。主審は試合終了のホイッスルを吹きました。古川は一目散に自軍ベンチへ駆け戻り、フェルナンデス監督と抱擁をかわしています! 札幌Vゴール! 勝った勝った! とうとうJ初勝利! ゴール裏では「カンピオーネ」のメロディーが流れ歓喜一色! …しかし待てよ。柏の選手が主審を取り囲んで猛抗議しています。それを後押しするように柏サポーターも騒然。抗議したとしても一度下った判定は覆るものではありません。副審のもとへ確認に赴くに至っても、確かに主審は試合終了を宣したのですし、副審はオフサイドや反則があったとしたら、その位置で旗を上げて(または振って)止まっているはずですから、いまさら確認に行くのもおかしな話です。
もうすっかり勝ったつもりでいる札幌サイドでしたが、なんだか雲行きが怪しくなり、そして信じられない光景を目にすることになります。なんと主審はボールを柏ゴールの前に置いて右手を上げ「オフサイド」を改めて宣したのです。札幌のゴールと勝利は取り消され、試合は再開されることになったのです。
収まらないのは札幌サポ席。一気に険悪なムードになります。しかし私たちは冷静でした。皆で声を出し合って「応援する方が先だ。まだ試合は続くことになったんだ」と、精一杯気持ちを切り替えて再びイレブンの背中に声援を送りました。
それにしても…長年いろいろなスポーツを見ている筆者ですが、一度下った判定が選手からの抗議によって覆ったというケースは初めて見ました。こんなことはあるはずがないと思っていましたし、あってはならないとも思っていたのに…。(この場面についての詳細は、よろしければ筆者のホームページをご覧ください)
書き漏らし棚ざらえ
試合の結果を「書き漏らし」に書くのは初めてですね(笑)。PK戦の末、札幌は3人目の鳥居塚が上に外し、柏は5人全員が決めて5-4で柏の勝利。2戦続けてのPK戦での白星です。札幌の「春」はまた1週間お預けとなりました。
「ディドはPKの対処に問題あり」と、日本平のレポートでも書きました。この日も動き出しの速さが柏の3人め大野のキックを止めたときにアダとなり、主審にやり直しを命じられたのです。GKはPKの際にゴールライン上なら左右に動いても構わないのですが、前方に出てはいけないのです。悔しいですが、これは主審がよく見ていました。勿体無いのはこの判定にクレームを付けたディドが警告をもらってしまったことです。自重してほしかったです。
と、一見コンサばかりに厳しい判定を下していたような北村主審ですが、現場で見ていた限りでは決して偏った笛を吹いていたわけではありませんでした。もしもそういった面があったのならば、試合中のほとんどの時間にわたって相手FWを後方から「羽交い締め」にし、少なくとも2回は引き倒した渡辺卓と木山の2人は退場を食らっていたでしょう。特に木山のディフェンスには問題おおアリです。今後Jリーグ中の審判からマークされる可能性もあります。一度染まってしまったクセはなかなか矯正できないとは思いますが…少なくともあの執拗に手を用いているプレーを、サッカー少年には真似てほしくないと希望します。「やるな」とは言いません。切羽詰まった局面では井原だって秋田だってやっているのですから。ただ、のべつやってはいけないものであると苦言を呈しておきます。見ていて気持ち良くありません。
今度は気持ちいい話題。柏といえば今年コンサに加わったGK加藤とFW有馬が昨年まで属していたクラブ。試合前には加藤を応援していたサポーターグループが「加藤をよろしくお願いします」とわざわざ我々の元に足を運ばれました。一方有馬を応援していた方々は、なんとコンサ側のゴール裏に自らの手で「有馬」と大書きされたダンマクを貼ってくださいました。こうしたお気持ちは本当に嬉しく受け止めさせていただきます。
実は柏と言えば多少サポーター気質の荒いところとして有名。あのまま試合がコンサドーレのVゴールで決まっていたとしたら、それはそれで我々が競技場を後にするまでひと悶着ふた悶着あったかもしれません(正直に言って恐かったです。ハイ)。
それにしてもよく我々は怒りを抑えたものだと思います。多少の大声が飛んだだけで、物を投げ込んだり、増して試合終了後に「実力行使」したりする者もなく、黙々と片づけを行い、競技場を後にしました。(さすがにエール交換はできませんでしたね)なんとも悔しい負け方には違いありませんが、我々以上に戦っていた選手達の方が悔しいに決まっているのです。そんな選手達のひしゃげそうな心に追い討ちをかけるような騒動を起こしては絶対にいけません。あくまで我々は「サポーター」なのですから…。
後日、サッカー専門誌「サッカーダイジェスト」誌上にこの試合を伝える記事が。その中でこんな一節がありました。「(この試合の)MVPは不運な判定にも不満を漏らすことなく、暖かい声援を贈った札幌サポーター」…わかってくれている人がいました。
(以上記事提供:横浜の渡辺さん)