『横浜の渡辺さんの観戦記』
もうひとつの戦い
1997年9月7日(日)。あの「ドーハの悲劇」から4年。日本サッカーは今度こそ世界への重い扉を押し開くべく、国立競技場でウズベキスタンとのフランスW杯最終予選初戦を迎えました。同じ日、そこから400キロ近く離れた岐阜市の長良川球技場メドウでは、JFL第21節「西濃運輸-コンサドーレ札幌」が行われました。
幸運にもW杯予選日本開催4試合分のチケットを入手できた筆者ですが、この日はそのうちの1枚を友人に託し、迷わず新幹線に乗りました。「世界」に向けた戦いと国内の2部にあたるJFLの試合。この2つの戦いは全く関係がないわけではありません。単純に考えて来年Jリーグに上がって活躍すれば、コンサからも日本代表としてフランス行きのチケットを手にする選手が出てくる可能性はあるわけですし、相手の西濃からもチームはどうあれ選手には未来があるわけですから同様と言えるでしょう。
さらに札幌市は2002年のW杯の開催が決定しています。その前年にできるであろう「札幌ドーム」はコンサドーレの新しいホームスタジアムになることも内定しております。つまりドームで行われるW杯の試合の際には全世界に向け「ここは日本最北のプロサッカーチームであるコンサドーレ札幌のホームスタジアムです」と紹介されるわけです。ACミランとインテルの「サン・シーロ」がそうであったように。パリ・サンジェルマンの「パルク・ド・プランス」がそうであるように。そのためにもコンサにはこれからの1試合1試合を大切に戦い、全世界にその名を響かせるにふさわしい存在感を築き上げてほしいものです。
川崎フロンターレとの再度の激闘を制し岐阜へ乗り込んできたコンサドーレ。今季14位と低迷し廃部も内定している西濃運輸相手に、どんな試合を見せてくれるのでしょうか。試合は当初、午後6時からのナイトゲームが予定されておりましたが、前述のW杯予選が7時から組まれたため、急遽4時に繰り上がり。蒸し暑い曇り空のもと、わずか354人の観衆。それでも私たちは、日本サッカーの今を生きる歴史の証人なのです。
長良川球技場メドウのピッチはやや芝の密度が低めながらもまあまあの状態。住宅地に隣接しているため太鼓を使用できず、約10人程度のメインスタンドアウェイ寄り最前列の声援隊は、手拍子と声での応援となりました。
コンサ型燃え尽き症候群?
コンサドーレは川崎Fとの激闘の後、西濃運輸戦までの2日間のインターバルを横浜で過ごしました。三ッ沢公園陸上競技場とサブグラウンド(普段Jリーグが行われる球技場に隣接)を用い2日間とも軽めの練習。横浜在住の筆者としては仕事をサボッてでも行かねばならないでしょう(笑)。そこで見たのは激戦の爪痕。このHPはライバルチームの関係者も見ていることを鑑みて、誰がどうだったとは言いませんが、マッサージやアイシングを受けている選手の多いこと多いこと…。中にはバルデスや渡辺のように顔面に傷を負っている選手もいて痛々しい限り。他チームも似たり寄ったりであるとは思いますが、この期に及んで五体満足な選手を見つける方が難しい状況でした。
思えば前期も川崎F戦の後は西濃戦。しかし前期はともにホームゲームで、しかも1週間の間隔がありました。今回は中2日。加えてアウェイ→アウェイ。ナイトゲームの予定が日中の蒸し暑さが残る午後4時のキックオフに。さらに前回を上回る激戦の後遺症…。今回の方が客観的に見て不利な材料は揃っていました。
が、それにしても立ち上がりから重い。開始早々のウーゴのFKが外れたのはご愛敬として、それから一気に流れは西濃へ。いつものように3-5-2で臨んだコンサに対し、西濃のフォーメーションは3-6-1。トップに原田1人を残し、2人がやや下がり目でボランチを組み、中盤での支配率を高める狙いのようです。これが功を奏し少しづつ西濃のラインが上がり、サイドへ有効なパスが出始めます。対するコンサドーレはまたしてもバルデスのアタマめがけての放り込みを狙っているようでアイデアが浮かびません。中盤での攻防で劣勢になったと見るや深い位置からのロングボールのフィード。当然精度が伴うわけもなくがっちりと固めた西濃DF陣にいとも簡単にはね返されてしまいます。
そんな状況で攻め込まれた前半15分。先制点は西濃が奪いました。ゴール前の混戦から卯田→梅田と渡ったボールは一旦は古川(?)がクリアを試みたものの、これが再び梅田の足に当たってゴールしたように見えました。バックスタンドにほんの10人くらい陣取っていた西濃サポーターが沸きます。をいをい、どうなっているんだ? 怪我とか疲れとかは別にして、選手たちに川崎F戦の後の「燃え尽き症候群」が根づいているのではないか?…そんな感じさえしました。
それを敏感に察知したのかフェルナンデス監督は前半24分に早くも選手交代&システム変更に踏み切ります。チャンスメイクができない山橋と、額に傷が残り思い切ったプレーに支障ありと見た渡辺を下げ、新村・鳥居塚という攻撃型の選手を2名投入しました。よって田渕・村田の位置は下がり、1トップのマークは古川に預けてペレイラがリベロになる4バック体勢になりました。
これでようやくコンサも目が覚めたようで、このあたりから前半終了まではほぼ一方的に押しまくります。バルデス、後藤、さらには鳥居塚の加入で上がるタイミングを掴んだ村田も積極的にシュートを放ちますが、相手GK吉坂の好守にもあってゴールは割れず。
この日の西濃はこの吉坂と右ハーフのキャプテンマークを付けた中塚の動きが際立っていました。出足も早くボールをつなぐ意識も高く、攻め込まれてからのカウンターの過程でも、前が詰まれば大胆に逆サイドへ振るという冷静さを兼ね備えていました。西濃運輸はご存知の通り今季限りで廃部の方針を打ち出してはいますが、サッカーに青春をかけた彼らのキャリアがすべて終わってしまうわけではないでしょう。何人かは確実に他チームに移ってでもプレー続行を望んでいるはずです。「俺達は首位チームを相手にしても、元Jリーガーのチームを向こうに回しても、これだけできるんだ!」とアピールするような気迫に満ちたプレーで中盤をかき回し、体を張ってディフェンスします。
我々声援隊の直下ではカルロス・コーチが終始「ヴァーモ! ヴァーモ!(行け! 行け!)」と叫び続けています。フェルナンデス監督も立ちっぱなしで指示を飛ばしています。「あの時もこんな感じだったなぁ…」と、コンサドーレのサポーター席に18節の甲府戦の悪夢が蘇りはじめました。
俺がムラタだ! 文句はあるか!
前半終了間際。コンサドーレはゴールほぼ正面20mくらいの位置でFKのチャンスを得ました。蹴るのはもちろんウーゴ。ここ数試合ウーゴはFKの調子が悪く(こちらは「筋肉番付」の後遺症か?)、甲府戦、川崎F戦でも再三あったFKはことごとくバーの上を越えていき、そのたびに頭を抱え苦悩の表情を見せていました。「蘇れ! 芸術の右足!」とスタンドの我々も「コンサライブ」のリスナーも「念」を送ったFKは、その甲斐あって(うん、あったんだ! 絶対に!)同点ゴールとなります。前半44分でした。前期最終戦の福島戦以来のFKからのウーゴのゴールは、その時とは逆の右ポストを直撃して反対側のネットを揺らしました。(ウーゴは後期初戦の水戸戦でもゴールしていますがFKではありません)
ここで前半終了。やれやれ。後半は気合を入れ直して頑張ってくれるだろうと期待していたら、さすがに鬼オヤジ(監督)からカミナリを落とされたのでしょう、開始から明らかにギアを1段上げたように攻勢に出ます。前半はすっかり忘れていたサイド攻撃・特に大きなサイドチェンジもたびたび見られるようになり、西濃ゴールに迫ります。ペレイラも頻繁にドリブルで持ち上がり分厚い攻めを展開。鳥居塚が中盤でよく利いていることによりウーゴが一層自由に動き回ることができ、ボールがつながりだします。新村もタテに抜ける意識を常に持ちながら前線で動き回ります。…こう書くといいことづくめのようですが点につながらないのが悲しい…。
ここで気になったのが甲府戦で同様の猛攻からカウンターを食らって失点したこと。が、さすがに同じ轍は踏まぬとばかり、左右どちらかが上がればどちらかが必ず残るようになり、また逆襲に対しては太田が第一の網になって食い止めます。
それにしても西濃のディフェンスも誉めなければならないでしょう。システムは3バックとはいえ常時5~6人が引いて守り、コンサドーレはその壁をこじ開けることができません。スキルに秀でた石塚の投入(後述)でわずかづつ前線にスペースが開くようになったものの、後半30分前後にはバルデスのヘッドはポストに当たり、期待の新村のドンピシャのヘッドもバーの上。そして完全に「入った!」と誰もが思ったバルデスのヘッドも相手DF西林(だと思います)がゴール寸前でヘッドでクリア! このプレーにはため息に続いてコンササポ席からも拍手が湧きました。
そんな煮え切らない状況の中で左サイドの村田の動きが目を引くようになりました。前述の決定機の幾つかも村田の突破によるもの。前半はすっかり蹂躪されていたトイ面の中塚が鳥居塚とウーゴのケアに神経を割くようになった隙を見て、たびたびタッチライン際をするすると上がって行きます。後半40分のプレーもそんな感じでした。が、それまでのオーバーラップと違っていたのは、比較的前方がクリアと見てギリギリの深い位置で勝負をかけたことです。ゴール前で待ち構えていたバルデスへパス。ダイレクトで浮かしたボールにヘッドで合わせたのは…センタリングした勢いでそのままゴール前右サイドまで詰めていた村田でした! 緩やかな弧を描いたボールはどうしても破れなかった西濃ゴールに吸い込まれていきました。ついに勝ち越し、コンサドーレ! 村田の今季初ゴール!
残り5分。GK森が遅延行為で警告をもらうリスクを犯してまでこの1点を守り切り、なんとかコンサドーレは勝ち点3をゲットできました。
しかしながら内容は最悪に近いものあり。引き上げてくる選手の顔に笑顔はなし。サポーターの声援にも疲れきった表情で応えていました。ただ1人、チームの窮地を救った村田は報道陣に囲まれ胸を張っています。前期終了後右足付け根の手術を断行し、仙台戦では脳震盪を起こした村田。彼もまたベストにはほど遠い状態で出場している一人でした。
試合後、西濃のサポーターと話をする機会がありましたが、「ウチ相手にこんな試合しているようじゃ、上(J)に上がったらタイヘンだよ」と、言われてしまいました。…返す言葉がなかったです…。
神聖かつ不可解な存在
ゲームの面白さは選手のプレーそのものもさることながら、審判のゲームコントロールにも大きく影響されます。冷静かつ適切なレフェリングで試合の黒子に徹する審判。興奮した選手を鎮めることができず火に油を注ぐような判定をする審判。やたらとカードを出しまくり試合の主役の座につこうとする審判。…色々なタイプがいるものです。審判も人の子。常に正確・精密な判定などできるわけがありません。筆者などは審判のミス・ジャッジは試合を彩る重要なオカズとさえ考えており、おかしな判定があったその瞬間は首をかしげたり、時にはヤジを飛ばしたりしても「ま、アレはアレで面白かったじゃないの」と割り切ってしまえる方の性格です。
が、それにしてもこの日の審判は主審・副審ともおかしかった。ファールやラインを割ったボールの占有権の判断に見る者が疑問を抱くのは日常的とはいえ、それに加えてこの日は重大な反則を見逃したり、逆に些細なプレーにカードを提示したり、明らかに感情的としか思えない振る舞いをしたり。
特に前半の中ごろだったでしょうか、カウンターに対処した田渕が左サイドから(田渕が左にいたこと自体このあたりの時間帯がコンサにとって不安定なものであったことを物語ってはいますが)バックパス。ところがこれが思いのほか勢いがつき過ぎてしまい、GK森がペナルティエリア左奥で両手を出してボールに触れてしまいました! 「あっ!」と息を呑む観衆。しかし主審の笛は鳴らず副審のファールをアピールする旗も上がらず。続いて「えーっ!?」の合唱がスタンドを包みます。明らかなバックパスに対する手の使用で、その地点から相手に間接フリーキックが与えられる場面でした。
許せないのはこれ以降、主審の笛が若干西濃寄りに傾き、「帳尻」を合わせようとしたことです。その後も続いた不可思議な判定にはウーゴもプッツンしかかりサポーターもなだめるのに必死(ただし日本語で)。後半勝ち越す前にはデリーがPエリア内で倒されたプレーも流され、鳥居塚へのファールをめぐってはベンチのフェルナンデス監督も激昂。主審が詰め寄り退席処分となりそうな気配もありました。 試合後はコンサ側・西濃側の区別なくサポーターは審判への不満を口にしていました。気持ちのいい行為ではないとはわかっていても、何か言わずにはいられなかったのです。
審判も人の子。だからこそルールで「神聖な存在」と位置づけられ「保護」されているわけです。権威の象徴である黒衣を脱げば、皆それぞれ職業を持っているただのサッカー好きの人々です。そのあたりを考慮して我が心を抑えても釈然としないものが残った試合でした。選手は(特に全員プロのコンサ側は)生活をかけて試合をしています。ひとつの判定が選手の輝ける未来を閉ざしてしまうことだってあるのです。マッチコミッサリーは公平な目で判断し、オーガナイズする側はリーグや選手のレベルに合った審判の配員をしていただきたいものです。
きょうの若様
後半21分からごっさんに代わって石塚が登場。17節福島戦以来のピッチでした。右ウイングの位置でのプレーでしたが突破してシュートを放ったり、味方の上がりを待ってタメを作ったり、FWの仕事は十分にこなしていたようです。
普段相手のDFを背中にしてプレーしているのはデリーですが、その状態で(これをスクリーン・プレイといいます)ボールをもらってから的確な位置へパスを配給する足技は石塚の方が秀でているようです。自らの鋭いシュートはGKの正面を突いたりコースをふさがれたりしてゴールを揺らすことはできませんでしたが、時折りあっと驚くようなタイミングで絶妙な位置へパス出し。しかし残念ながら周囲との呼吸が合わず決定的なチャンスはなかなか生み出せませんでした。長髪と髭に別れを告げ、すっかり「さわやか系」の炭酸飲料あたりが似合う風貌になった石塚ですが、こんな狙いを持ったパスがつながらなかったときは「あーあ」なんて感じの表情を見せ、「らしさ」の片鱗を見せ付けてくれたのでした。
面白かったのはユニフォームのシャツをパンツの外に出しっぱなしにしてプレーを続け、再三主審に注意されていたこと。「面倒くせぇなぁ」という声が聞こえてくるようにパンツの中に入れるのですが、すぐに相手の密着マークにあってまた外に出てしまうのです。「速報」ページをご覧いただいていた方なら思わず吹き出したことでしょう。
さて、そんな石塚選手のことを筆者は「若様」と呼ぶことにしました。コンサ合流からもうすぐ1ヶ月。徐々にチーム戦術にもフィットし、課題だったフィジカル面も向上してきたようです。練習でもすっかりメンバーに溶け込んでいます。問題(?)のやる気も存分にあるようです。実りの秋に向けて、「若様」は注目度大ですよ!
書き漏らし棚ざらえ
今季2度目の途中交代となった後藤。前半33分にはラフプレーでイエローカードをもらい通算3枚目。雪辱を期す次節東京ガス戦は出場停止となってしまいました。前期の江戸川でのPK戦で散った一戦でもウーゴと田渕が出場停止となっています。こういう巡り合わせってやっぱりあるのでしょうか?
なお前半赤→後半黄色になったごっさんのキャプテンマークは、退く際に一番近くにいた太田に引き継がれました。実は三ッ沢練習の際に直接ごっさんに「やっぱり気分によって前・後半で色を変えているのですか?」と聞いたら「そう!」というお答えでした。
ハーフタイムや試合後に数人の地元のファンから「ディドさんはどうしたのですか?」と質問されました。岐阜はかつてディドが所属していたグランパスのホーム・名古屋の近くで、岐阜でも何度か試合をしたことがあるでしょう。そんなわけで久々のディドの勇姿を一目…と思ったファンが多数足を運んでくださったものと思われますが、この頃まだ本人はベッドの中。「実は仙台戦で骨折して…」と説明してあげると、みな残念そうに肩を落としていました。しかしこれほどまでに多くのファンのハートをつかんで離さないディドさんの偉大さをあらためて知ったのでした。…と、ともに中央のマス・メディアはJFLのこのテの情報をさして報道してくれていないのだということも。
前述のように筆者は西濃の選手の気迫あふれるプレーに感動さえ覚えていました。試合終了後、ピッチ脇に偶然中塚選手を発見。思わず「お疲れ様でした! ナイスゲームでした!」と握手を求めてしまったほどです。筆者はこの日の彼のプレーと彼の名を憶えておこうと思います。また来年、どこかのピッチで会いたい…。心からそう思いました。
試合後は札幌から「遠征」されていたEveの佐藤さんと中西さんと名古屋まで出て、気になる「日本-ウズベキスタン」のTV中継を見ながら夕食。城のゴールを見ながらのみそかつ定食が美味でした。みなさん、イイですよ>みそかつ! ちなみに赤みそですからね!
なおこの日の岐阜市上空は厚い雲に覆われ、試合開始時点から照明灯も点灯。よって光量不足と判断し試合中の写真撮影は断念いたしました。悪しからずご了承ください。
<別件>
この翌日、江戸川競技場での東京ガス-川崎Fを観戦してまいりました。追いつ追われつの好ゲームを延長Vゴールで制したのは東京ガス。準会員キラーぶりを発揮し勝ち点差で2位川崎Fに2と迫り、次節厚別に乗り込んでまいります。前期の対戦では怪我で欠場していたエース・アマラオが4得点の大爆発! 主将不在ではありますが、選手は気を引き締めて、またサポーターは怒涛の大声援で借りをキッチリと返して欲しいものです!
(以上記事:横浜の渡辺さん)