『大熊洋一さんの観戦記』
1997.06.07(土)14:00k.o./東京ガス-コンサドーレ札幌(江戸川)
天候=晴れ
日差しは強いものの、この時期の東京にしてはさほど蒸し暑くもなく、からっとした天気。どうせがらがらだろうと思って行ってみたら、けっこう入っているので驚きました(実際の入場者数は2,624人)。しかも、東京であるにもかかわらず、札幌のフラッグを持った人も多かったです(会場では売っていないというのに)。スタンドは、アウェイの札幌側から埋まっていきました。
さて、コンサドーレ札幌のメンバーは、GKにディド、DFがペレイラ、中吉、渡辺、MFが村田、太田、浅沼、後藤、鳥居塚、FWに山橋とバルデスの3-5-2。対する東京ガスは、GK鈴木、DF新條、ビルッカ、本吉、藤山、MF浅利、岡島、蓮見、エドウィン、FW小林、和田の4-4-2。
まずは前半。先にペースをつかんだのは東京ガスでした。左サイド(札幌からは右)の小林が浅沼を抜いてチャンスを作る場面が何度か。一方の札幌は、ロングボールをバルデスの頭に向けて放り込むだけで、中盤がまったくないサッカーになっていました。浅沼、村田の両ウィングバックはほとんど攻め上がれず、最終ラインが4人、5人になってしまうことも。また、中盤を作るはずの鳥居塚、後藤もポジショニングが深く、ついにはバルデスが中盤までボールをもらいに下がってくるほど。そんな中、孤軍奮闘したのが山橋。ボールを受ければ相手ディフェンダーが何人いようとゴール目指してまっしぐら。中盤のないサッカーゆえ前線にボールが来なくなると、前へ行ったり後ろへ行ったりしながら、少しでもチャンスを探そうとしていました。前半終了近く、山橋が強引なドリブルで中央突破をはかって打ったミドルシュートが札幌にとっては最大のチャンスでした。しかし結局は得点ならず、0-0でハーフタイムに。
後半、東京ガスはなぜか前半出来のよかった小林を下げ、岡元を投入。札幌は交代なし。後藤と鳥居塚のポジションがかなり高い位置に上がり、そのためか浅沼、村田を絡めたリズムのいい攻撃もみられるようになりましたが、ほとんどの時間帯は東京の攻撃。札幌はスペースがあるのに選手が動かないのに加え、後半に入ってから中盤でボールを受けることが多くなった鳥居塚が大ブレーキ。前にスペースがあるのに後ろへパスしてしまう、無理なパスを送ってインターセプトされる、近くに味方がいるのにドリブルして奪われてしまう、等々。せっかく相手ボールを奪っても、鳥居塚のところでリズムが崩れてしまいます。東京がゲームを支配したまま、後半31分、左サイドでペレイラが抜かれて東京のセンタリング、ゴール中央でヘディング、万事休す!と思いきや、ボールはクロスバーをたたいてフィールドに。これはツキ以外の何者でもありません。
後半34分頃、コンサドーレは攻撃参加の減った浅沼に代えて岡田を入れます。ところが39分頃、渡辺卓がバックチャージでこの日2枚目のイエローカードをもらい、退場。10人になった札幌は、鳥居塚に代えて朝倉を投入。しかし鳥居塚はもっと早く代えてもよかったのではないだろうか…。
しかし、残り5分、札幌のリズムが出てきます。43分頃、バルデスがゴール前に上げたボールに後藤が頭で飛び込むもこれはGKの正面。ロスタイムに入ってからは、左サイドでボールを受けた山橋がフェイントとコンタクトの強さで相手ディフェンダー3人をかわすもセンタリングに失敗。前半からものすごく動いていた山橋、まだまだ元気です。
結局、0-0のまま延長戦に。開始2分、虚を衝いた東京の強烈なミドルシュートはペレイラがブロック(ペレイラは本当に危ないところによく出てきます)。5分、後藤に代えて吉成。後藤のキャプテンマークは山橋に託されました。その直後、入ったばかりの吉成が目の覚めるようなロングシュート。残念ながらたまたまコースにいた相手ディフェンダーに当たって勢いが弱められ、ボールはGKの胸の中。東京は8分、FWの和田に代えてアシス投入、疲れの見えてきた札幌DFラインの裏に縦パスを放り込み、アシスを走らせる作戦に出ます。とりわけ札幌の守備の要・ペレイラがねらわれ、ほとんどよれよれのペレイラは何度となくアシスに裏を取られました。何しろペレイラの10メートル以上後ろから走ってくるアシスがペレイラを簡単に追い越すのだからどうしようもありません。それでも粘り強いディフェンスとディドの好セーブなどでなんとかしのぐと、ロスタイムに入ってから山橋への長い縦パス、山橋は相手ディフェンダー2人に囲まれ孤立(誰もサポートに来ない!)するも粘り、ペナルティエリアのすぐ外で倒されてFKを得ました。ペレイラと吉成が並び、蹴ったのは吉成。ゴール中央へすいこまれそうなボールをGKがはじき、こぼれたところを中吉が…ジャストミートせず、得点ならず。惜しかった。
延長後半。一人多いはずの東京がどういうわけかえらく守備的になってしまい(同行の友人いわく「ウルトラディフェンシブ」)、前線には奥原を残すだけ。札幌は10人とは思えないほど攻撃を仕掛けますが、さすがに疲れたか、各選手の反応がおそろしく鈍く、5分すぎにはここまで大活躍の山橋までもが足をひきずり動きを止めてしまいました(足がつったのか?)。それでもバルデス-山橋-バルデスのヘッドであわやVゴールの場面(わずかにシュートがゴール左にはずれる)、動けなくなって2列目に残ってしまった山橋が突然猛スピードで走り込んできてのシュート(相手ファウルを誘いフリーキック=ペレイラねらうもはずれ)など、札幌の攻撃は続きます。東京はカウンターねらいでロングボールを蹴り込みますが、いずれも長すぎて直接ディドへ。太田が抜かれて2対1となった局面では、ペレイラが無理に突っ込まず、相手の横パスを完全に読み切ってカット。12分、太田からパスをもらったバルデスが相手ディフェンダーをかわしてシュートを放つも、東京GK鈴木が思い切りのいい飛び出しでスーパーセーブ。ついに試合は0-0でPK戦へ。
PK戦は両チームとも5人成功(札幌=ペレイラ、吉成、朝倉、太田、バルデス、東京=本吉、浅利、岡島、ビルッカ、新條)。ディドは3人目でボールを手先に当て、5人目でもシュートコースに飛んであと一歩。さあここからはサドンデス、札幌の6人目はキャプテンマークをつけた山橋。しかし、山橋のシュートは力なく、わずかに左に動いただけのキーパーの正面へ…。東京は6人目のアシスがゴール右上にきっちりと決め、東京が勝ち点1をもぎとりました。札幌、ついに今季初黒星です。
結果的には山橋のPK失敗で負けましたが、試合後、挨拶に来たイレブンが引き上げるときに起きていたのは山橋コールでした。とにかく今日は山橋です。これを生かせなかったのがなんとも残念。前半から攻守ともまったく機能していなかった鳥居塚を吉原に代え、吉原-バルデスの2トップで山橋2列目という戦い方をしていれば…、とも思われます(ちなみに私はナビスコの札幌3-1横浜Mを見て以来のコンサドーレ生観戦です;したがって普段の札幌はよく知りません)。また、前半から山橋以外の選手がほとんど動いていない(動けていない?)のが気になりました。スペースがあるにもかかわらず、突っ立ったままの選手が多いのはなぜ?
とはいうものの、後半の東京のクロスバーに当たったシュートが入っていれば東京は勝ち点3でした。また、渡辺の退場で1人少なくなったにもかかわらず、PKまで持ち込めたのですから、とりあえずこれでよしとすべきなのかもしれません。これで本田技研戦は絶対に落とせなくなりましたが…。
ところで、感心したことを一つ。札幌のサポーターのみなさんは、負傷した選手が立ち上がってゲームに戻ると、それが相手選手であろうと大きな拍手を送っていました。延長の後半という厳しい時間帯でもそれは変わりません。相手チームの選手が怪我してもけっして喜んだりはせず、サッカー選手としての姿を応援する札幌サポーターの方々はじつに立派でした。
いつか厚別へ行ってみたいと思いつつ、競技場を後にしたのでした。
(以上記事:大熊洋一さん)
『横浜の渡辺さんの観戦記』
川崎恐るべし、東ガス侮り難し
東ガス-札幌の観戦記の前に前週(5/31)に等々力で行われた川崎F-東京ガスの、いわば「敵情視察」の模様から。厚別でコンサドーレの驚異の粘りの前に延長で散ったとはいえ、完成度の高いチーム力を見せつけた川崎。その川崎とどんな試合をするかで東ガスの実力も計れようというもの。
試合は前半は様子を探っていた川崎が後半開始とともにペースアップ。後半3分、左サイドからの低いクロスをクリアせんと待ち構える東ガスDFの鼻先で向島がボールをかっさらい先制。相手のDFからすれば「突然消えて、突然現れる」向島の持ち味が出た一瞬でした。22分にもムタイルが中央でためを作った脇を向島がすりぬけてゲット。31分にはムタイルにヘッドを食らって3-0で川崎快勝。豊富なタレントと高い戦術を持った川崎はやはり油断ならない相手です。本当に勝っておいてよかった(汗)。
今季初黒星の東ガスも点差ほど力の差はないように見えました。怪我で欠場のアマラオにかわる1トップのアシスに両サイドから蓮見(仙台戦でハット達成)、19歳のルーキー小林が攻めあがり、エドウィン、岡島らも精力的に動き回ります。特に左ハーフ小林の豊富な運動量とセンスはちょっとした発見。彼と蓮見はコンサドーレの両ウイングバックには厄介なトイ面となりそうです。DF陣の統率もよく、激しい中盤からのチェックで鋭いカウンターを狙う戦術が選手に浸透しています。
やっぱり川崎は強い。東ガスも侮れない。昨年は道内唯一の黒星を喫し、アウェイ(栃木)でも勝てなかった東ガス。たっぷりとお返しをしてやるという意気込みと、相性が悪いのでは…という不安を胸に、1週間後に思いをはせたのでした。
東都初見参!コンサ一家全員集合!
不安のタネは他にもありました。それは日本代表のサポートでも有名なあの朝日くん率いる東ガスのサポーターの凄まじい応援。前週は人数こそ20人程度でしたが、野太い声で一糸乱れぬ見事なコーラスを等々力競技場いっぱいに響かせていました。ブーイングやヤジも辛辣で、これぞ「ウルトラ」の応援といった感じ。あの連中を敵に回すのかぁ…。確か「コンサドーレ」になって以来、花の都・東京23区内で試合をするのは初めてのはず。おノボりさん状態(な、ワケないか)の選手たちがビビらなければいいが…。
などと考えて江戸川競技場に着くと、まず驚いたのが悲惨なピッチコンディション。双方のゴール前、センターサークル付近はまるっきり芝がなく、土がむき出しになっている状態。どうやら芝がもちこたえている領域も密度は低く、その色から生育状況も芳しくないことがわかります。後日の情報で直前までラクロスの大会が開かれていたせいでピッチの悪化に拍車がかかったとのことです。
まぁ、Jリーグ以前の日本のサッカー環境ならばこの程度は当たり前だったのですけれどね。であってもJFL上位のチームが使うにしてはちょっとお粗末。スタンドも収容人員はメイン・バックで4千人も入らないでしょう。先ごろ発表されたJリーグ2部参加申請に東ガスの名前がなかったのも(NTT関東とともに継続検討中)、こうしたスタジアムや法人設立などのハードルがあったからと聞いています。
それはともかく好天も手伝いスタンドはよく埋まりました。しかもコンサ側のお客さんの割合がほぼ半数を占めていたのには驚愕。遠く北海道から駆けつけた皆さんも多数いらっしゃいましたが、やはり主力は首都圏在住の道出身者や東芝時代を懐かしむファン。横断幕は東ガスのそれよりも明らかに多く、旗も互角かそれ以上。よし、これなら応援でも負けないぞ!
あとは選手に頑張ってもらおう。…あの芝状態ですからゴール前でのイレギュラーバウンドなどが怖いところですが…。
熱く、不可思議な攻防
試合の経過そのものは上の大熊さんのレポートや他のHP、メディアで知ることができるでしょうから、筆者の印象とこの日やっと先発出場機会を得た選手のことを中心に書きます。
5月18日の仙台戦あたりから顕著になったのですが、コンサドーレは中盤の運動量が悲劇的に少なすぎます。パスを受けにスペースへ入る動きも、他の選手が受けやすいようにスペースを作る動きも不足。こぼれ球の支配は圧倒的に東ガス。ピッチ状態が悪いせいもあってやけにロビングボール(浮き球)の応酬が目立つ試合でしたが、落下点で競り勝つのはここでも東ガス。そうやってボールを奪うと素早くサポートの選手がスペースへ上がり、そこでボールを受けようとしています。前をふさがれれば両サイドの浅沼、村田の裏側へ蹴り込んで小林、蓮見に勝負させます。戦術として「取ったらこう送る。受けたらここへ出して、こう走る」といったある程度の約束事がピッチの選手たちに浸透しているのでしょう。岡島、浅利の両ボランチが精力的に仕事をこなしていました。ただ悲しいかなそれを忠実に実践するほどの個人技がないことと、フィニッシュ担当の切り札であるアマラオがいないことで、ゴールまでボールを運ぶことはできません。無論、コンサにはペレイラとディドがいますので、そう簡単には行かせるわけもありませんがね。
対するコンサドーレは常にトップのバルデス・山橋と鳥居塚以下の中盤の選手との距離が開いていました。トリはウーゴの代役らしくよくボールに触れパス配給を企てますが、なぜかこの日は不調。ラストパスの精度は目を覆わんばかりに拙く、たびたび好機をフイにしていました。出しどころを探しているうちに相手に詰められ、苦し紛れのバックパスをカットされ逆襲を許したこともありました。これは彼1人の責任ではなく、前述の通りコンサドーレの他の選手にパスを受けるまでの工夫が足りなかったせいと、東ガスDF陣の堅牢な守備にも起因しているでしょう。なにしろバルデスにはCB2人がガチガチにマーク。ある程度好きにやらせてもらえた山橋にも最後の一線は越えさせてくれません。トリと周囲の浅沼、後藤らのコンビネーションが良くないと見たコンサドーレは、次に左サイド村田を上がらせます。これも奏効せずとなると中盤を省略してひたすらバルデスの頭めがけて放り込み。しかし競り合って落としたボールのそばにいるのは常に東ガス。それならばと山橋が体を張って単独突破。粘って粘ってゴール前へ送ろうと中を見ると、そこには誰も上がっていないという状況。これじゃ手詰まりになるのも当然。ぐっと選手のスタミナが落ちた後半あたりからは、コンサドーレのパスは横パス、バックパスばかりとなり、ボールを持っているのにゴールからは離れてゆくというなんだかアタマがパニックになりそうなサッカーとなってしまいました。前線でデリーや山橋が、後ろではペレイラとディドが献身的に頑張っているのに、その他の選手はひと休みしてしまっているのですから淋しい。彼らにしてみればカウンター警戒という意図があったにせよ、あらゆる攻撃的局面で数的優位を作れなかったのは運動量そのものがなく選手間の距離が開きすぎていたからと言えます。
目の前で繰り広げられているサッカーは、ちょっと見は攻守の切り替わりが早くスペクタクル性に富んだものと言えないこともなかったでしょう。しかし首をかしげざるを得ないコンサドーレの積極性を欠いた姿勢に、次第にスタンドのストレスも募ってきました。
苦悩のウイングバック
連続ベンチ入り不出場記録(そんなものあるのか)を更新中だった浅沼に田渕の欠場でやっとチャンスが巡ってきました。位置は右ウイングバック。3-5-2システムにおけるこの位置は、昨年までの攻撃的な右ハーフと違い、攻撃・守備両面に高い能力が要求されます。本人も守勢に回った際のプレーに課題があることは承知しているでしょう。さらにはトイ面の小林を警戒して、フェルナンデス監督から「守備重視で行け」という指示を受けていたのかも知れません。
と、いった点を踏まえてのこの日の浅沼の出来について、見事なまでに観戦者の評価は分かれています。「よく動いていた」「いいクロス上げていた」「ディフェンスしっかりやった」という賛美から、「上がりが中途半端」「クロス入れるタイミングと位置が悪い」「小林や浅利に振り回されてアップアップのディフェンスだった」といった手厳しい意見まで。実はこれ、どれも正解。
筆者の目からすれば、攻撃参加に関しては勝負する場面があまりに足りなかったのではないかと思います。序盤はバルデスをターゲットに何本かクロスを合わせていました。ところがかなり浅い位置からの蹴り込みに終始。本人はもっと深い位置まで相手DFを切り裂いて、ラストパスを送りたかったのかもしれませんが、勝負してほしい局面でもう1歩が出ず。周囲のサポートが薄かったこともあって、やむなく半端な位置からのクロス(もしくはバックパス)を選択せざるを得なかったのでしょう。
もっと彼本来の鋭敏なプレーを見てみたかった筆者としては、やはり「物足りなかった」と言わざるをえません。反面守備はそこそここなしていたようです。昨年からのコンサ・ファンにとっては「守る浅沼」を見られたということは画期的なことだったのでしょうか?
名将、動かず
ときに大胆なまでの選手起用や試合中のシステム変更などで我々をたびたびあっと言わせてきたフェルナンデス監督。それらにまた選手もよく応え、ここまで「動いて吉」の試合が続いていました。最近では観戦に訪れるサポーターの中にも「今日は誰を入れて誰を動かすんだろう」と、監督の采配を楽しみにしている者まで現れています。
今日は違いました。膠着した試合の打開策を図らないまま時間が経過。レギュラー2人を欠き、ベンチには試合経験の少ない若手が主体。動きたくても動けない状況があったのかもしれません。システムをいじろうにも練習で試した4バックやドイスボランチ(ボランチ2人)がうまく機能していなかったために、0-0の時点ではギャンブルはできぬと見て自分からは動かなかったのでしょう。
ようやくフェルナンデスが動いたのは後半30分過ぎ。疲労からか運動量が落ち、ミスパスも目立つようになった浅沼が足をつったのを機にルーキー岡田を投入。ところが若者らしからぬ消極的なプレーに終始し、試合の中から消えていました。浅沼同様監督から慎重策を指示されていたのかもしれません。加えて直後に札幌は1人少なくなり(後述)、4バック体制にならざるを得なくなったことにも起因するでしょう。それにしてもボールに触れる機会はほとんどがバックラインでのボール回しだけ。ドリブル突破や前方へのフィードさえなし。本当はもっといい選手だと思いたいのですが、今日のところはただ「右の後ろにいた」だけでした(ちょっとキツいかな?)。
次の交代は予期せぬもの。残り10分を切っての渡辺卓の退場処分でした(警告2回)。うなだれてピッチを後にする卓。声を無くしたスタンド。急拠呼ばれたアップ中の選手は朝倉。退くのは鳥居塚。ここで両ウイングバックを下げて太田、朝倉をその前に並べる今季初の4バック&ドイスボランチという手が打たれました。以後は一気呵成の東ガスの攻めに耐えて90分経過の笛。
これは「たられば」の世界の意見になってしまいますが、筆者が監督であったならば恐らく次の手を打っていました。まず後半開始から小林が退いた段階で(上の大熊さん同様、筆者も小林を下げたのは不可解)浅沼を本来の右ハーフに上げ、渡辺卓を不慣れとはいえ右サイドバックに。前半再三突破を図っては潰されていた村田はミスキックが目立ちはじめ限界が見えていたため、彼の位置も下げて4バックにし、鳥居塚に代わって左サイドに吉成を投入、中に後藤、ボランチ太田変わらずでダイヤモンドを形成する4-4-2を取ったでしょう。これなら敵1トップに中吉が付き、2列目からの侵入を企てるに相手にはボランチ太田とペレイラで対応、サイドからの崩しには村田と渡辺…と、最終ラインに一層の安定がもたらされ、カウンターへの恐怖感が薄らいだのではないかと思います。さらに切り札として浅沼のガソリンが切れた段階で吉原を右ウイングにして3トップとし、その下に後藤と吉成が並ぶ形にもできます(おまけにまだ1人交替枠が残る)。
後述しますがこの日最も観衆を魅了した吉成を延長戦まで「出し惜しみ」にし、最も感動を与えた山橋を孤立させた点は明らかなフェルナンデスの采配ミスであると指摘しておきます。勝ち点3を得る冒険を捨て相手の得られるであろう勝ち点を1つでも2つでも削ってやろうという考えも肯定できません。長いシーズンなのですからいい時ばかりではないにしろ(さらに敵地での試合という点を鑑みても)、どう見てもベストを尽くしていたようには感じられませんでしたから。怪我や練習での不調など観客の預かり知らぬところで諸々の事情はあったのかもしれません。それでも当日競技場に足を運んだお客さんにとっては、目の前で行われた試合、繰り広げられたプレーが記憶に残るすべてなのです。「あの○番代えろよ!」「なんであの20番を早く出さなかったんだ!」「もっと攻めていけよ!」などのヤジがたびたび飛んでいたこと、後半にはついに「カネかえせ!」の声まで出たことが象徴的でした。
山橋と吉成。宝石箱の中の2人
延長に入っての実際のフォーメーションは4-2-1-2。攻撃は前の1=吉成と2トップ任せで、後ろの6人は時々ロングボールをほうり込むくらいで高い位置までは出ず。それでも吉成が多彩なパスでチャンスをたびたび演出し、Vゴールの匂いさえ漂い始めました。延長後半開始5分頃にはバルデスがゴール正面でほぼ完璧にヘッドでとらえたものの、サポーターの大きなため息とともにボールはゴール左へ外れPK戦へ。
PK戦は記録の通り5人目まで双方成功。ほとんどの選手がキーパーから見て右側に蹴っており、ディドは3人め本吉か次のビルッカのときには読みがピタッと当たって右へ飛んだのですがわずかに及ばず。サドンデスに突入した6人目、コンサドーレは山橋が止められ5-6で今季初敗戦。
誤解を恐れずに言えば山橋がしくじってくれて良かった。彼の奮闘はすべての観戦者の胸に焼きついたはずです。最後の「バクチ」に敗れたからといって誰も山橋を責める者はいないでしょう。監督はあの川崎戦後「山橋はチームの宝」と言ったそうですが、この日彼は我々にとってもかけがえのない存在になりました。
それと吉成。未だ道内デビューを果たせないコンサドーレの魅惑の最終兵器です。この日プレゼント・パスとファールでしか目立てなかった後藤(主将であり筆者と同い歳であるからこそ叱責する!)に代わって延長前半4分から登場。足元が良ければもっと彼の動きは光ったでしょうし、交代時期が遅れたように見えたのも、案外このピッチコンディションでは吉成は生きないと思われたせいかもしれません。思い切りのいいミドルレンジからのシュートと柔軟なタマさばき。センタリングとみせかけて左のアウトフロントでカーブをかけてゴールを狙った一撃にはただただサポーターもため息。
この2人のプレーを見られたことがこの日江戸川に詰め掛けたコンサ・ファンにとっては収穫といえたでしょう。宝石箱の中に入れておきたいくらいの鮮烈な印象を与えてくれました。
笑顔の行方
試合後、門のところで他のサポーター仲間と「出待ち」(いいトシして…)。見送るバスの車窓に見えた選手や監督の顔には、一様に笑顔がのぞいていました。我々に対する精一杯の感謝と礼儀(あるいは強がりと言っては失礼かもしれませんが、それに類するもの)の表れだったのかもしれません。事実、あの笑顔で我々の帰りの足取りは少し軽いものに感じられました。
その一方でこういう見方もできないでしょうか。コンサドーレはJFLの開幕早々から「優勝候補」「ナビスコ予選突破」「来期J確実」「全勝」…といった様々なプレッシャーと戦ってきました。実力があり、結果を出し続けているがゆえにのしかかってくる宿命的なものともいえました。ここでついに1敗。それも120分を戦いぬき、PKまで粘りに粘って。決して「惨敗」とは呼べない試合で。しかも敵地で。「俺達だって負けることはあるんだよ。いつも絶好調じゃないんだよ。ごめんね」とでも、選手たちの笑顔は語りかけてきたのかもしれません。考えてみればまだ9節。3分の1も終わっていない段階です。勝ったり負けたり(全部勝つに越したことはありませんが)、楽勝したり苦戦したりしながら30試合もの長丁場で、最後に達成感に満ちた心からの笑顔が見られればそれでいいのです。私たちは多くのものを彼らに求めすぎていたのかもしれませんし、彼らもまたそれらすべてを受け止めようとしていたのかもしれません。
この日の笑顔が、こうした過ぎた重圧から解き放たれたものだったのかどうかは、次週の本田戦で明らかになるでしょう。
書き漏らし棚ざらえ
延長前半、吉成と交代してピッチを後にしたキャプテン後藤。左腕のキャプテンマークは誰に…?と、思ったら山橋に渡りました。残りの顔ぶれを見ればペレイラかディド、日本人なら太田あたりが妥当か…なぜまた比較的若い山橋に…やはり道産子だから?…などと深く考える必要ナシ。ベンチへ下がる途上のたまたま近くにいたのが山橋だったので、ポイと投げ渡しただけというのが真相でしょう。
そのキャプテンマーク。要するに「腕章」なのですが、どうもごっさんは前半と後半でマークの色を変えているようです。前半は黄色。後半からは赤。ずっと以前からそうだったのかは不明ですが、少なくともここ数試合はそう。今季のコンサドーレは「火付き」の遅いチーム。前半は耐えて後半に得点するパターンで白星を重ねてきました。案外このキャプテンマークが「ギア・チェンジ」の役割を果たしているのかもしれません。
最後にディド。完璧を求めるキーパーにとっては最も辛い終わりかたでした。試合後バックスタンドのサポーター席前まで来てくれたイレブン(マイナス1)の中でも最も落胆の色は濃く、写真の寸前までは両腕を腰に当てうつむいていました。「そんなディドさん見たくないよ」と、口の中でつぶやいた言葉が届いたのか、ようやく顔を上げ我々の声援に応えてくれました。引き上げるディドさんの背中はいつもよりちょっと小さく見えました。でもGKの誇りを存分に見せてくれたディドさん。きっとあなたに憧れてグラブを手にする子供たちが増えることでしょう。またあなたのプレーを見に、僕も遠くまで出かけることにします。
次の観戦予定は刈谷です!
(以上記事:横浜の渡辺さん)