『二上英樹の観戦記』
JFL前期最大のやま場、川崎フロンターレ戦がやってきた。観客動員は、昨年の仙台戦(10030人)をわずかに越える10500人。厚別の入場者数新記録更新、大台には乗ったものの、もう少しと言ったっところか。これは、この日、札幌市内の小学校で、軒並み運動会が催された事による(札幌では、秋ではなく、この時期に運動会をするんです)。そういえば、今日は、子供たちの数がいつもより少なかったように感じます。運動会さえなければ、15000人はいっていたでしょう。それでもホームゲームのべ入場者数は10万人をこえ、10万人目の方には北海道FCから記念品が贈呈されました。
コンササポーターはこの日の試合がいかに大切かは知っている。集まった1万人強のサポーターの数は、前前節の徳島戦より、2500人も多い。予想よりは少ないとは言え、厚別はほぼ満杯となったのでした。メインスタンドのSS指定席は前売りの段階で売り切れ、バックスタンドのS自由席、ホームゴール裏芝自由席は満杯。試合前、場内アナウンスで、「芝席は大変混雑しております。詰めてお座りください。」とアナウンスがあったくらいですから。この日の、天候は曇り、風はそれほど強くなく、やや肌寒いと言った感じか。選手にとってはグッドな、気候。
そうこうしている内に試合開始時間がやってきました。先発メンバーは以下の通り。
- FW:吉原、バルデス
- MF:村田、マラドーナ、太田、後藤、田渕
- DF:冨樫、ペレイラ、渡辺
- GK:ディド
いつもの3-5-2フォーメーション。大分戦でレッドをもらった冨樫の出場停止が解け二試合ぶりの先発。控えは、山橋、鳥居塚、浅沼、中吉、森。対する、川崎Fは、ムタイル、ベッチーニョのFW、MFの両サイドを向島、桂の高速コンビで固め、DFは、4バックスのラインディフェンスの、4-4-2。
試合開始から、スタジアムはコンサドーレの応援一色。コーンサドーレ、ドドンコドンドン、の声がスタジアム中に響きわたる中、試合は、序盤、一進一退のペースで進みます。試合が何となくいやな方へ動きはじめたのは、15分頃から。バルデスが審判への暴言で、イエローをもらうと、18分頃には、ムタイル(川崎F)が、渡辺へのラフタックルで、イエローをもらいます。ここらあたりから、試合が何となく荒くなってきます。さらに、20分ごろは、接触から中西(川崎F)が担架で運び出されると(中西はこの後復帰)、22分ごろには、太田がラフプレーでイエローをもらいます。試合があれはじめた30分頃、ゴール前DFを背負ったムタイルから、右にいたベッチーニョにパスが流れます。これをベッチーニョが決めて、0-1、先制されてしまいます。ため息がスタジアムを覆うものの、「まあ、1点くらいはしょうないわな、相手は強敵川崎やさかい。逆転するから、まっとれよ」、と言った感じで、スタジアムのコンサドーレコールが続きます。スタジアムがシーンとなったのは、それから数分後、ムタイルの走り込みにオフサイドをかけ損なってしまいます。ドフリーで、ディドと一対一になったムタイルは、ゴール正面から、きっちり決めます。これで、0-2。相手川崎Fが強いことを知っているコンササポーターは静まり返ってしまいます。こんなにスタジアムがシーンとなってしまったのは初めてです。それでも、気を取り直したサポーター達は、40分ごろから、声を出し始めます。その声がよろこびの声に変わったのは、44分、バルデスがゴール前で、相手DFにおさえられて、PKをもらいます。「よし、これで1-2だ」、と思ったのもつかのま、なんとバルデスが蹴ったPKを相手GK、浦上がナイスセーブ。スタジアムは一転、ため息に包まれます。そのまま前半終了。
この日の前半の札幌、時々いい攻撃を見せるものの、あまりいいとこなし。それと言うのも、川崎の両サイドMF、向島と桂がいたから。川崎は、ムタイルとベッチーニョのツートップの、4-4-2のフォーメーションを取っているのだが、実際は、ムタイルがワントップ目になり、下がり目のベッチーニョがゲームを組み立てるという形を取る。今日の川崎、両サイドの向島と桂が、ウイングぐらいの位置まで上がってきて、実際は、3人のFWがいて、それをベッチーニョが操るといった、4-3-3のフォーメーション。で、この向島と桂のマークにつくのが、札幌の両サイドウイングバックの村田と田渕。この2人が、向島と桂の足を恐れて、ぴったりとマークについてディフェンシブになった結果、コンサドーレは5人のバックスが最終ラインを形成し守るといった事態になってしまいました(この日の向島と桂はとにかく足が速かったです、すごい脅威でした)。そのため、ボールを奪っても、ボランチの太田から、前線までの距離が離れすぎてしまい、ボールが繋がらない。結果、中盤を川崎に支配されてしまい、バルデスや吉原は、常に倍以上のDFのマークを受けるといった事態になってしまいました。そのため、いい形が作れない。マラドーナも、最終ラインまで戻ってきて、ボールをもらうといった始末で、結局、これが、前半0-2のスコアとなってしまいました。
さて、後半、札幌は調子の良くない吉原にかえて、山橋を投入。山橋は、札幌出身の選手で、厚別には初登場。山橋コールがスタジアムにこだまします。この山橋投入があたります。吉原のようにスペースに抜けるのとは違い、自分で、サイドをドリブルで駆け抜けるタイプの山橋は、札幌に攻撃のリズムをもたらします。後半五分ごろ、ゴール正面でもらったFK。蹴るのはマラドーナ。相手DFの壁の上をギリギリに超えたボールは、ゴール左隅に決ります。一点返し、盛り上がるスタジアム。 さあ反撃開始だ、といった雰囲気がスタジアム全体をおおいます。ペースが札幌になったと感じた、川崎Fはベンチが動きます。後半15分向島に変えて長橋投入。逃げ切りにはいります。これを見た札幌ベンチも動きます。DF冨樫に変えて、MFの鳥居塚投入。さっきも述べましたが、ここまで川崎Fは、3トップのような感じで、攻撃してきており、向島に村田、ムタイルにペレイラ、桂に田淵がついていたので、実は2人のセンターバックは余っていたんですよね。DFのポジションに2人余っているから、攻撃陣の数が少なくうまくいかないでいました。この交代で、DFは、左から、村田、ペレイラ、渡辺、田渕の4バックス。鳥居塚は攻撃的MFの位置に入り、マラドーナと一緒にゲームを組み立てます。また、向島の足を恐れなくて良くなった村田も左サイドをあがり、攻撃参加を始めます。
試合は、スタジアムの熱狂的な応援と相まって、札幌が支配し始めます。これに対処するため、川崎Fベンチは、さらに動きます。FWムタイルに変えて、MF伊藤を投入。完全に逃げ切りにはいります。ところが、これで相手FWの脅威がなくなったフィールドの上は、完全に札幌ペース。これではいかんと思ったのか、今度はMF桂に変えてFW源平を投入。FW源平なんかを投入するのなら、最初からムタイルを残しておけばいいのに。完全に、川崎ベンチは慌てています。攻撃陣の厚みを元に戻そうとするが、札幌の勢いは止まらない。圧倒的にゲームを支配する札幌が攻めます。それでも川崎なんとか耐えます。そして札幌の攻撃陣が攻め疲れた40分、カウンターを一発食らいます。これをなんとベッチーニョに決められてしまい、1-3。さすがにこの時間帯での失点は痛い。厚別無敗神話も今日で終わってしまうのか。スタジアム中にサポーターの悲鳴とため息がこだまします。ここまで、頑張っていたマラドーナもひざに手を突きうつむいてしまいます。
この状況になって、キャプテンシーを発揮したのが、ディド。まだ5分ある。あきらめ気味のコンサイレブンを大きな声で叱咤します。この姿や、攻撃参加し少なくなったDFの代わりに、時間をかけまいと自陣サイドのスローインを自分でやるといった姿に感化されたのは、選手達だけではありません。スタジアム中のサポーターもです。ゴール裏だけでなく、メインスタンドもバックスタンドも総立ち、泣きながら応援している娘もいます。みんなコンサドーレの応援に力一杯手をたたきます(そう、ナビスコのガンバ戦だって残り3分ぐらいで3-1を追いつかれてしまったわけだから、コンサだってできないわけがない)。コンサイレブンもこれを受けて、総攻撃を開始。そして後半44分、ゴール正面に、後ろからふわっと浮いたボールにバルデスがトリッキーに足で合わせます。飛び出してきていた、GKの頭をふわっと超えゴール。これで2-3。スタジアム中はボルテージが最高潮、歓声と泣き声がこだまします。この期に及んで、「前半失敗したベルデスのPKの1点があったら」、なんてやぼなことを考えるサポーターなんて誰一人いない。「あと一点、何がなんでも奪い取ってくれ。」と言った気持ちが観客全員の気持ち。
それでも計時板は、既にロスタイム。最後の奇跡を信じて、1万人がコンサドーレコールの大合唱。札幌イレブンだって時間がないのは知っています。DFのペレイラが左サイドを駆け上がります。これで、CKを執念で得ます。ここにいち早く走ってきたのがマラドーナ。「俺がける!!」といった気持ちが身体中からありあり(左のコーナーキックはいつもは後藤が蹴るのです)。これがラストプレーとふんだコンサドーレは、太田を残して全員がゴール前に上がります。GKのディドも相手ゴール前まであがって、最後の勝負(ディドは身長は180cm以上あるのです)。川崎Fゴール前に両チームの21人の選手が集結。そんなフィールドの状態に、観客だってこれが最後の勝負だってことがわからないはずがない。目いっぱいの声と拍手で応援します。そんなすごい雰囲気の中、マラドーナの蹴ったCKはゴール前へ、ニアサイドの選手のヘッドによりファーサイドに流れたボールにあわせたのはバルデス。ジャンプ一発、頭で地面にたたきつけたボールはキーパーにあたりながらも、ゴール右隅へ。スタジアム中が大騒ぎ。みんな、横の人と抱き合って喜んでいます。この際、知合いか他人かなんて関係ない。泣いている人あり、大声だしている人あり、叫んでいる人あり、拍手が止まりません。このまま、後半終了、延長へ。
延長は、完全に札幌ペース。スタジアムは、コンサドーレコール一色。選手交代に失敗した川崎に反撃の力は残っていません。札幌は、川崎のカウンターを三発ぐらいくらうも、川崎ゴールへ執拗な攻撃を仕掛けます。そして延長後半5分、右を抜けた後藤がゴール正面の、バルデスにパス。シュートを放つも、一度はキーパーにはじかれます。これが再びバルデスへ、相手DF二人の間を強引にぬけて、シュート。キーパーの手の先をすり抜けたボールはゴール左隅へ突きささります。Vゴ~~~~~~ル。もうスタンドはお祭り騒ぎ。結局、バルデスのハットトリックで、試合が決りました。
この日の試合は、二点差を跳ね返すといった、ものすごい結末を迎えました。ここで思い出されるのが、昨年の厚別での鳥栖戦。あのときは、1点リードしながら試合終了間際に逆転され、ロスタイムにペレイラのFKで同点に追いつき、オテーロのVゴールで勝利。サッカーのすばらしさを体感した試合でしたが、この日の試合はそれ以上、将来札幌のベストゲームのひとつにあげられるのではないかと思われるゲームでした。きっと、これで、札幌ファンがまた増えたことでしょう。試合中継の解説の水沼さんは、きっと昨年と同じ事をいっていることでしょう(「まるで、シナリオがあるみたいですね」。水沼さんは昨年の鳥栖戦も解説でした)。
ところで、この日のゲーム、明暗を分けたのは、選手交代。すなわち、両チームの監督の采配だったと思います。2-0とリードされ、1点返したといっても、まだ川崎が試合の主導権をもっていたのは、間違いなかったところです。ところが、後半15分で、早くも逃げ切りにはいります。そこで向島を下げてしまったのが、この試合のキーでした。これで、負担の軽くなったDF陣。そこで、DF冨樫にかえて、MF鳥居塚を投入できたわけです。また、向島の足を警戒しなくなくても良くなった村田は、4バックスになってからの方が、よくあがるようになりました。試合が進むにつれて、以下のような感じで、フォーメーションが推移しました(前半はかなりディフェンシブでした)。攻撃陣の数が増えていったのがよくわかります。後半は、ペレイラも、田淵もカウンターと見れば駆け上がっていたから、まさに全員攻撃といった所でしょう。ムタイルや向島、桂がいれば、カウンターがすごく怖いところです。
(前半のフォーメーション:5-3-2)
相手両ウイング、向島と桂の出足が早く、ディフェンシブになった村田と田淵の攻撃力はほとんどゼロに抑えられてしまう。結果、中盤がつながらず苦戦。
- FW:吉原、バルデス
- 攻撃的MF:後藤、マラドーナ
- 守備的MF:太田
- DF:村田、冨樫、ペレイラ、渡辺、田渕
(川崎Fの向島が下がった後、後半鳥居塚投入時のフォーメーション:4-4-2)
向島が下がってムタイルのワントップ気味になって、守備陣の負担が軽くなったのを見て、DF冨樫に変えて、MF鳥居塚を投入。
- FW:山橋、バルデス
- 攻撃的MF:マラドーナ、後藤、鳥井塚
- 守備的MF:太田
- DF:村田、ペレイラ、渡辺、田渕
(川崎Fのムタイルと桂が下がった後、後半終盤のフォーメーション:2-6-2)
ムタイル桂と下がり、それまでゲームメイクをしていたベッチーニョがワントップのFWになってからは、中盤を完全に支配。札幌はさらに攻撃的布陣になり、村田、田淵の両サイドも頻繁にオーバーラップを見せるが、手薄になったDF陣の裏をつかれ、ベッチーニョに3点目を決められる。それでもその後、村田、田淵、ペレイラがさらに攻撃的になり、ここから札幌の怒涛の反撃。
- FW:山橋、バルデス
- 攻撃的MF:後藤、マラドーナ、鳥井塚
- 守備的MF:村田、太田、田渕
- DF:ペレイラ、渡辺
(最後のCKの時のフォーメーション:1-0-10?)
後半最後のCK。太田以外は全員上がる。ディドもニアサイドに上がり、川崎DF大場のマークを受ける。このため、それまでシャイデ、大場の二人からマークを受けていたバルデスのマークが手薄になる。
- FW:山橋、バルデス、後藤、マラドーナ、鳥井塚、村田、田渕、渡辺、ペレイラ、それとディド(^^;)
- DF:太田
後半15分の向島の交代に加え、川崎がさらにミスしたのは、ムタイルを下げて、よりディフェンシブになった事です。このあと、MFの桂に変えて、FWの源平を投入するといった、ちぐはぐな采配が、川崎ベンチの混乱を語っています。これは、この時間帯、ゲームが札幌のペースになってしまっていたことによるのでしょう。たしかに、スタジアム全体が札幌の応援をするという異様な雰囲気になっていて、必要以上の脅威を川崎ベンチが感じたのかも知れません。向島を下げて逃げ切りにはいるのが、あと15分遅かったら、すなわち、後半30分を過ぎてからだったら、どうなっていたかわかりません。おそらく川崎は逃げきれたでしょう。札幌も、15分くらいでは攻めきれなかったと思います。札幌が攻撃し続けた効果を見せ始めたのは、鳥井塚投入から20分ほどしてからです。この頃、川崎DFはかなり疲れていました。バルデスについていたシャイデ(川崎F)は、最後にはバルデスを抑えきれていませんでした(試合途中までは、完全にバルデスを抑えていて、ヘッドはことごとく取っていました)。
今日の試合は、サポーターが狂乱乱舞するくらいすごいものでした。そのため、私の観戦記も、いつもより、ボリュームのあるものになってしまいました。ちょっと読みづらかったかも知れませんが、そこら辺は、愛敬ということで、お許しください。川崎に勝ったとは言え、まだ、東京ガス、本田と油断のできない強敵が控えています。札幌も苦汁を舐めるときが来るかも知れませんが、今日の頑張りを忘れずに健闘して欲しいものです。
(以上記事:二上英樹)
今回は熱戦だったので、写真がいっぱいあります。重くなってすいません。